足趾の皮膚潰瘍よりジフテリア毒素非産生Corynebacterium diphtheriae が検出された1例―鳥取県
(Vol. 32 p. 112-113: 2011年4月号)

2010年10月、足趾の潰瘍よりジフテリア毒素非産生Corynebacterium diphtheriae が分離された1例を認めたため報告する。

患者は90歳、女性。認知症あり、近医の訪問診療のもと在宅療養中。2010年10月1週程前より食事摂取量の低下を認め、低栄養、脱水を認めるため入院となった。

身長140cm、35kg。認知症のため意思疎通は不能。胸腹部に異常所見は認めず。両転子部に褥瘡を認め、右第4趾間に潰瘍を認めた。著明な脱水、低栄養を認めたが、諸検査にて内部臓器に異常は認めなかった。栄養療法により全身状態は改善した。皮膚の潰瘍部はポピドンヨード軟膏(ユーパスタ®)の塗布にて改善した。なお本患者および家族等近親者のジフテリア感染歴は認めなかった。

患者の足趾皮膚潰瘍部排膿からC. diphtheriae を分離し、細菌学および遺伝子学的試験を行った。生化学的性状は、アピコリネ(日本ビオメリュー)キットによりC. diphtheriae mitis型と同定された。ジフテリア毒素の直接確認試験は、寒天内沈降反応であるElek試験、およびレフレル培地の凝固水中に産生される毒素を培養細胞法(Vero細胞)で確認した結果、両試験ともに陰性であった。また、PCRによるジフテリア毒素遺伝子(248bp)の検査も陰性であった。これらの結果から、この菌株は、ジフテリア毒素を非産生のC. diphtheriae と判定した。従って、2類感染症としての届出は不要と判断し、行政的な対応はされなかった。

また、過去の国内臨床分離株8株(岡山1株、新潟7株)とパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)解析を行った結果、比較的遺伝子型が似ている新潟株2、3、4、7例目との相同性は約50%であった(図1)。従って、今回の分離株は、過去の国内分離株とは異なる由来であることを示した。

C. diphtheriae はジフテリア毒素を産生し、偽膜形成を伴う上気道炎から呼吸困難、心筋炎、神経麻痺など重篤な症状を呈するジフテリア症の原因菌である。わが国においては2001年以降、感染症法としての届出は無い。英国においては近年ジフテリア毒素非産生性のC. diphtheriae がヒトから多数分離されている1) 。本邦にても2006年岡山県での血液培養からの検出例1例2) 、2009年本間らによる半年間での3症例の検出例の報告3) を認めるなど、潜在的に国内においてもC. diphtheriae が増加している可能性が考えられる。

人畜共通感染症としてのC. ulcerans とともにC. diphtheriae に対する認識を高めておく必要があると考えられた。

 参考文献
1) Reacher M, et al ., Emerg Infect Dis 6(6): 640-645, 2000
2) IASR 28: 201-202, 2007
3)本間康夫ら、新潟県臨床検査技師会誌 49(4): 210-215

鳥取赤十字病院内科 堀江 聡
鳥取県東部総合事務所福祉保健局 長井 大
国立感染症研究所細菌第二部 高橋元秀 小宮貴子

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