疫学調査とPFGE解析により食中毒と断定された腸管出血性大腸菌O157散発事例―名古屋市
(Vol. 32 p. 129-130: 2011年5月号)

2010(平成22)年6月下旬〜7月上旬にかけて、名古屋市内で腸管出血性大腸菌(EHEC)O157感染症散発事例が急増した。そのうちの4事例について、疫学調査および患者菌株のパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)の検査結果から、牛生レバーを原因食品(推定)とする一連の食中毒事件と断定したので報告する。

1.事件の概要
事件1:6月26日、市内のA焼肉店で家族4名が牛生レバー、ユッケを喫食したところ、子供(7歳男児)が6月29日に発病し、7月5日にEHEC O157(VT1&2)の届出がされた。患者の妹(5歳)も保菌者であることが判明した。A焼肉店は、牛生レバーを6月25日に市内のC食肉販売店から仕入れていた。

事件2:6月26日、市内のC食肉販売店で購入した牛生レバー(生食用として販売)を、同日自宅で母親と子供の2名が生食したところ、子供(5歳女児)が29日に発病し、7月8日にEHEC O157(VT1&2)の届出がされた。母親からは菌は分離されなかった。

事件3:6月26日、市内のD食肉販売店で購入した牛生レバー(加熱用として販売)を、同日自宅で家族5名が生食したところ、子供(12歳女児)が29日に発病し、7月5日にEHEC O157(VT1&2)の届出がされた。患者の弟(8歳)も保菌者であることが判明した。なお、D食肉販売店は牛生レバーを6月26日に市内のE食肉販売店から仕入れていた。

事件4:7月1日、市内のB焼肉店で友人10名が会食し牛生レバーを食べたところ、7月6日に1名(36歳男性)が発病し、7月12日にEHEC O157(VT1&2)の届出がされた。

7月5日、同B焼肉店で友人3名が牛生レバーを食べたところ、7月9日に1名(30歳男性)が発病し、7月16日にEHEC O157(VT1&2)の届出がされた。B焼肉店は、牛生レバーを6月26日および7月2日に市内のE食肉販売店から仕入れていた。

2.牛生レバーの流通遡り調査
事件1〜4について牛生レバーの遡り調査を実施したところ、いずれも6月22日または25日に県内のHと畜場、FまたはG食肉処理場で処理された牛生レバーであることが判明した(図1)。なお、同時期に愛知県内でも同一流通の牛生レバーを食べたことによるEHEC O157食中毒事件が2件発生した。

3.結 果
事件1〜4のEHEC O157(VT1&2)患者および保菌者の菌株7検体について、名古屋市衛生研究所および国立感染症研究所でPFGE解析を実施したところ、7検体すべてのDNAパターンが一致した。喫食・遡りなどの疫学調査および患者菌株のPFGE解析の結果から、今回の4事件について牛生レバーを原因食品(推定)とする一連の食中毒事件と断定した。なお、愛知県内の食中毒事件患者菌株もDNAパターンは一致した。

4.考 察
EHEC感染症の散発発生の場合、牛生レバーや生肉等の食品が感染源として推定されても、食中毒事件として断定に至るのは難しい場合が多い。今回は、患者調査および関係施設の遡り調査等の情報を集約し、さらに患者菌株のPFGE解析を実施することにより食中毒事件と断定し、関係営業者や消費者の指導啓発を行い、被害の拡大および再発防止を図ることに繋げることができた。

しかし、これらの調査および検査には多くの時間を要し、食中毒事件として行政処分等の迅速な措置を履行するには課題が残る。今回の調査等を通し、関係自治体間の連携・情報共有による疫学調査の重要性を再認識するとともに、迅速な解析検査方法の必要性を改めて認識した。

今回の事例では、と畜場および食肉処理場では加熱用として出荷された牛生レバーが、販売・提供・消費の段階で生食されている実態が明らかとなり、流通において加熱用であることを周知徹底していくことが重要である。さらに、EHEC患者の多くは、生レバーや生肉を喫食した若齢児等であり、保護者を中心とした消費者への積極的なリスク情報の提供が必要である。

名古屋市健康福祉局食品衛生課 佐野一雄 北本美代子 木村泰介
名古屋市衛生研究所微生物部 安形則雄 藪谷充孝

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