保育園で発生した腸管出血性大腸菌O121の集団感染事例―埼玉県
(Vol. 32 p. 131-132: 2011年5月号)

2010年5〜6月にかけて、埼玉県北部の保育園で腸管出血性大腸菌O121:H19(VT2産生)(以下、O121とする)による集団感染事例(感染者10名、うち園児6名、家族4名)が発生したので、その概要を報告する。

経 緯
2010年6月2日、医療機関から管轄保健所に、EHEC O121感染症患者発生の届出があった。患者は1歳女児で、5月25日から下痢症状を呈し、27日に医療機関を受診、検査の結果O121が検出された。届出を受けて、保健所による保育園の立ち入り調査が実施された。園児、職員の健康状態や給食状況等、施設内感染の有無および拡大に関しての調査が行われ、保育園に対し園児の健康観察の実施と施設の消毒、手洗いの徹底、プールの延期等、二次感染防止策の指導が積極的に行われた。検便検査は、対象を患者園児の在籍クラス(1歳児)の園児、職員および患者家族に対して3日から実施した。また、健康観察の結果、1歳児クラス以外にも有症園児が認められたため、検査対象を園児全員に拡大した。その結果、7日までに1歳児4名、2歳児1名からO121が検出された。また、同日には医療機関において検査中であった患者家族1名の届出があった。10日までに新たに患者家族3名から検出され、これ以降検査対象からO121は検出されなかった。検便最終日の17日までに園児96名、職員26名および家族23名の合計 145名、陰性確認を含めた延べ159件の検査を行った。

検査結果
O121検出状況を表1に示した。医療機関での検出者を含むO121陽性者は園児6名(6家族)、家族4名(3家族)の合計10名であった。クラス別の陽性者数は、1歳児クラスで5名(45%)、2歳児クラス1名(5.0%)であり、0歳、3歳、4歳、5歳児の各クラスでは陽性の園児は確認されなかった。また、陽性者10名のうち、有症者は6名であった。有症者の症状は5名が下痢(うち2名が発熱を併発)、1名は軟便および腹痛であった。また、下痢を発症した有症者5名はすべて園児であった。溶血性尿毒症症候群(HUS)や脳症等の重症者はいなかった。

医療機関で検出された菌株を含め、今回検出された菌株はすべてEHEC O121:H19、毒素型はVT2であった。また、DHL寒天培地上の乳糖分解性は遅分解であり、一般的な大腸菌のような分解性ではなかった。O121は、乳糖分解性に関して、分解、非分解、分解と非分解または遅分解が混在するという3つのパターンがあるため注意が必要である。

さらに、制限酵素Xba Iを用いたパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)を実施した結果、検出菌株すべての遺伝子パターンは一致した(図1)。

まとめ
初発患者を含めた発症者が1歳児クラスに集中していたこと、職員からの菌検出が無かったこと等により、保育園が提供した食事による患者発生とは認められなかった。また、PFGEによる遺伝子パターンがすべて一致したことから、保育園内での日常生活において感染が拡大したと考えられたが、感染経路を特定することはできなかった。

埼玉県衛生研究所深谷支所感染症担当
小林 匠 森永安司 石川弘美 宇佐美宏典*
*現埼玉県食肉衛生検査センター

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