特別支援学校で発生した腸管出血性大腸菌O26の集団感染事例−岩手県
(Vol. 32 p. 133-134: 2011年5月号)

岩手県のM保健所管内の特別支援学校(以下支援学校)において腸管出血性大腸菌(EHEC)O26:H—(VT1)の集団感染事例が発生したので概要を報告する。

2010年7月31日、M保健所管内の医療機関から保健所にVero毒素(VT)は検査中であるが、大腸菌O26が検出されたと連絡があり、調査を開始した。患者は支援学校(小学部〜高等部の児童生徒81名、職員68名)の中学部1年生で、7月25日に発症、29日に受診し、31日にVTは未確認だがO26が検出された(3日後にVT1産生性判明)。患者は自宅から支援学校に通学し、放課後は学童の家を、休日は児童福祉施設(寄宿施設で支援学校生の一部と訓練生が利用)を利用していた。支援学校に患者の他にも胃腸炎症状を有するものが3名いることがわかり、VT陽性の場合と同様に対応し、施設への検便等の協力依頼と感染拡大防止のための衛生指導を行った。

検便検査は、8月3日VT産生性判明の連絡を受け開始し、8月4日は、患者家族、支援学校および学童の家の関係者90名について、8月7日は4日の検便で児童福祉施設関係者にO26(VT1)が検出されたことから児童福祉施設関係者に範囲を広げ、感染者の家族含めて68名について、8月10日は感染者の家族5名について実施した。その結果、対象者173名中18名からO26(VT1)が検出された。その内訳は、支援学校の児童生徒35名中8名、同職員45名中3名、児童福祉施設の生徒24名中1名、同職員27名中1名、感染者の家族35名中5名の計18名である。なお、学童の家の職員7名からは検出されなかった。また、保健所の検査とは別に医療機関の検査で感染者家族1名および児童福祉施設の生徒1名からO26(VT1)が検出された。最終的な感染者数は初発患者を含めて21名となった(表1)。EHEC O26感染症は、無症状病原体保有者が多いことが知られている(IASR 31: 154-172, 2010)が、今回の事例も同様で、21名のうち有症者は8名で、その症状は水様性下痢が8名、腹痛1名、血便1名で、溶血性尿毒症症候群(HUS)等の重症者はいなかった。

8月17日以降、新たな感染者の発生はなく、8月25日にすべての感染者の陰性確認が終了し、本事例は終息した。

当センターで本事例から検出された21株についてパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)による遺伝子解析を実施した結果、すべて同一のパターンを示した。また、M保健所管内では本事例と同時期に、O26(VT1)による家族内感染1事例と、保育園における集団発生1事例が発生しており、同一感染源による広域的散在発生が疑われたことからPFGEにより比較を行ったが、3事例のPFGEパターンはそれぞれ異なるパターンであった(図1)。その後の検討においても、2010年に岩手県内で検出されたO26(VT1)に本事例と同一PFGEパターンを示す株は認められなかった。

感染経路については、支援学校は給食を実施しておらず、また、有症者の発生も散発的であったこと(図2)から食中毒の可能性は否定された。支援学校には、手洗いの習慣化が難しい児童生徒や、排泄に介助が必要な児童生徒が多いことから、主に接触感染により感染が広まったものと推測された。

今回の事例では、検査機関で血清型がO26と判明した時点で医療機関へ連絡され、医療機関から保健所へも速やかに連絡があり、保健所の調査や指導を早期に実施することができた。また、支援学校、児童福祉施設等の関係者も協力的であったことから、感染拡大することもなく、1カ月という比較的短期間に集団発生を終息させることができた。これらのことから、関係機関の連携が図られた事例であったと考えている。

岩手県環境保健研究センター
岩渕香織 山中拓哉 高橋雅輝 高橋知子 齋藤幸一 太田美香子 熊谷 学 佐藤耕二
宮古保健所
笹島尚子 島香聖子 蛇口哲夫 藤澤 徹 柳原博樹

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