親水施設および保育所で発生した腸管出血性大腸菌O26集団感染事例−長野県
(Vol. 32 p. 132-133: 2011年5月号)

2010年7〜8月、県中部の公園付設の親水施設が感染源として疑われ、その後さらに保育所において腸管出血性大腸菌O26:H11 VT1(以下EHEC O26)を原因とする集団感染事例が発生したので報告する。

2010年7月29日〜8月4日にかけて、医療機関から管轄保健所に相次いで4例のEHEC O26感染症患者(2〜4歳、3家族)の届出があった。保健所の疫学調査の結果、4人とも7月18〜25日の間にX公園の水遊び場(親水施設)で遊んだことが判明し、喫食調査の結果、共通食はなかった。このことから親水施設が感染源として疑われたため、保健所は親水施設の管理状況について調査するとともに、採水し検査を実施した。また、患者4人の家族の検便を実施したところ、さらに3人の感染が確認された。なお、この3人も、この親水施設を利用していた。

8月12日、これらとは別の3人(同一家族、3〜5歳)の届出があり、聞き取り調査を行ったところ、当該親水施設の利用はなく、1例目の患者と同一のA保育所に通園していたことが明らかとなった。さらに8月18日には別の患者(A保育所1歳)の届出があった。この事態を受け、A保育所を詳細に調査したところ、他にも有症の園児が複数いることが判明したため、全園児107人、職員27人の計134人の検便を実施した。その結果、さらに園児14人の感染が確認され、A保育所における感染者は合計20人となった。また、感染が確認された園児の家族の検便から4人の感染者が確認され、親水施設の事例とあわせ、本事例の感染者数は合計30人となった。

感染者30人のうち、患者は20人で、主な症状は水様性下痢、発熱等であったが、いずれも症状は軽く、短期間で軽快した。

8月12日に届出のあった1人が再感染したとして届出があった。この児は抗菌薬服薬後、8月16日および18日に検便を実施し菌の陰性化を確認したが、通園再開後の8月27日に再度水様性下痢の症状を呈し、検便の結果、感染が確認された。この児は10月下旬に陰性が確認された。

また、8月23日に感染が確認された患者1人は、抗菌薬服薬中は菌が陰性化するが中止後陽転することを繰り返した。症状は消失したことから主治医の判断により10月上旬に服薬を中止し自然治癒を待ったところ、11月29日に陰性が確認された。

患者延べ21人の利用施設別・発症日別患者発生数(図1)をみると、X公園親水施設利用者は7月24〜30日までの間に発症していた。これらの者は施設利用から発症まで6〜12日間を要していた。一方、A保育所関連患者は8月1〜27日まで約1カ月にわたり、持続的に発生していた。

患者便、接触者便およびX公園親水施設の水については、医療機関もしくは保健所において分離培養を実施した。また、分離菌について制限酵素Xba Iを用いてパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)による遺伝子解析を実施するとともに、K-B法によりアンピシリン(ABPC)、セフジトレン(CDTR)、セフォタキシム(CTX )、カナマイシン(KM)、ゲンタマイシン(GM)、ストレプトマイシン(SM)、テトラサイクリン(TC)、クロラムフェニコール(CP)、ナリジクス酸(NA)、ノルフロキサシン(NFLX)、ホスホマイシン(FOM)、スルファメトキサゾール/トリメトプリム合剤(ST)の12薬剤について薬剤感受性試験を実施した。

親水施設の水は8月3日および4日に計4カ所から採水し検査を実施したが、いずれも検出されなかった。また、感染者延べ31人から分離された菌株計31株についてPFGEを実施したところ、すべての株で同一のパターンを示した(図2)。薬剤感受性試験の結果は、17株はすべてに感受性を示したが、14株は1〜6剤に対して耐性を示した。なお、陰性化までに時間を要した2例のうち、1例はすべてに感受性を示し、もう1例はNFLX 1剤に耐性を示した。なお、この2例に対する治療の際の抗菌薬は、FOMおよびCDTRが使用されていた。

親水施設を利用したEHEC O26患者は7月下旬に集中的に発生したのに対し、A保育所関連患者は8月の約1カ月間にわたり持続的に発生していた(図1)。疫学調査の結果、親水施設利用患者のうち2人はA保育所の園児であったことから、8月以降のA保育所における感染者の発生は、親水施設利用患者が感染源となった可能性が推察された。また、親水施設利用感染者およびA保育所関連感染者分離菌株のPFGE解析の結果、いずれも同一パターンを示したことから、これらは同一由来株である可能性が高く、疫学調査結果を裏付けるものと考えられた。

親水施設利用患者らは、当該施設を7月18〜25日の間利用していたことが疫学調査によって明らかにされている()。このことから、当該施設水はこの期間にEHEC O26に汚染されていたことが推定された。今回、当該施設水からはEHEC O26不検出であったが、採水日が8月3〜4日であり、その時点では当該菌による汚染がすでに認められなかったものと示唆された。

A保育所における集団感染事例が約1カ月の長期にわたり持続した理由は、患者の症状が比較的軽症で感染者の発見が遅れたことや、保護者、保育所関係者ともに危機意識が薄かったことなどが考えられた。集団感染事例の対応は、特に初動が重要であることを再認識させられた事例であった。

長野県環境保全研究所
笠原ひとみ 上田ひろみ 畔上由佳 内山友里恵 宮坂たつ子 藤田 暁
長野県諏訪保健福祉事務所
柳澤あやか 丸山ますみ 米沢義孝 小松 仁

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