2010年8月13日、医療機関から2歳保育園児のO157(VT1、後にVT1&2に訂正)による感染症発生届が提出された。患児の通うY保育園関係者(園児、職員)について接触者検便調査を実施した結果、園児14名からO157が検出された。感染者は0歳〜3歳児クラスに集中しており(表1)、さらに家族内二次感染によるO157感染者が8名判明した。有症者12名の症状は血便2名、下痢11名、腹痛5名、発熱4名であり、8月8〜15日までに発症していた(図1)。また、本事例では一度は菌陰性が確認されたにもかかわらず、再度菌が検出された再陽性者3名が報告され、初発届出から最終陰性確認まで約30日間を要した。
検査センターで実施した初発患者分離株のVero毒素産生はイムノクロマト法によりVT1のみが確認された。しかし、管轄厚生センターおよび当所におけるPCR法によるVero毒素遺伝子検査では初発患者分離株を含む本事例感染者分離株はすべてVT1&2遺伝子を保有していた。イムノクロマト・RPLA等のVT2タンパク質の検出法では、VT2産生量の少ない株や、VT2検出抗体と反応性の低いVT2変異株の場合、VT2検出感度が低下するため、VT2産生が検出されず、VT2遺伝子検査結果と一致しない場合がある1) 。本事例分離株6株のVT2産生量をRPLA法(VTEC-RPLA、デンカ生研)で測定したところ、検出限界は4〜16倍希釈と、他の事例より分離されたO157(VT1&2)のVT2の検出限界(16〜128倍希釈)より低値であった。
感染者22名についてその分離株のパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)解析を行った結果、O157分離菌22株は3つのパターンに分類された(図2)。最も多かったパターン3は22株中12株を占めていた。このPFGEパターンごとに分離株の薬剤感受性試験(ノルフロキサシン、オフロキサシン、ナリジクス酸、カナマイシン、ゲンタマイシン、ホスホマイシン、アンピシリン、スルファメトキサゾール/トリメトプリム合剤、テトラサイクリン、コリスチン、セファゾリン、クロラムフェニコール)をディスク法により行った。その結果、PFGEパターン2、パターン3の株はテトラサイクリン耐性であり、パターン1の株は上記薬剤すべてに感受性であった。
本事例においては、有症者の発症日が初発探知前後の8日間に分散していること(図1)、保育園の給食、調理員からO157は検出されていないことなどから、給食等を介した同一曝露による感染ではないと考えられたが、感染源・感染経路を特定することはできなかった。しかし、保育園内の感染者の分布は同一保育室(1階A室)を利用した0〜1歳児および3歳児クラスの一部に集中しており、A室を利用していた園児16名中感染者は7名(44%)と、他の保育室を利用していた園児と比較して感染率が高かった(表1)。このような疫学調査から、保育園内の人−人感染が推察された。
管轄厚生センターはY保育園に対して給食室・プールの使用自粛、職員の衛生教育のほか、トイレ・手洗いを中心に消毒設備の整備と衛生管理の徹底などについて指導した。感染者宅には個々に訪問し、家庭における二次汚染防止について指導した。また、W町と連携し、町内保育所に対する感染症予防研修会を実施した。
参考文献
1) IASR 25: 147, 2004
富山県衛生研究所細菌部
木全恵子 嶋 智子 金谷潤一 磯部順子 倉田 毅*1 佐多徹太郎 綿引正則
富山県中部厚生センター
柚木悦子*2 中嶋寿絵 横川 博*3 小池美奈子 中島康文 南部厚子 大江 浩
(*1現国際医療福祉大学塩谷病院、*2現生活衛生課、*3現新川厚生センター)