保育施設で発生した腸管出血性大腸菌O26の集団感染事例−奈良市
(Vol. 32 p. 136-137: 2011年5月号)

2010年8〜9月、奈良市のA保育所において腸管出血性大腸菌O26:H— VT1(以下O26とする)による集団感染事例(菌陽性者13名、うち園児11名、家族2名)が発生したので、その概要を報告する。

経 緯
2010年8月19日、医療機関から奈良市保健所に、O26感染症患者発生の届出があった。患者は0歳女児(症例1)で、8月9日から下痢、発熱を認め、医療機関にて治療を受けていたが下痢が持続するため、8月16日に検査を行い、19日にO26が判明した。直ちに市保健所が疫学調査と衛生指導を実施したところ、患者が在籍している保育所にて、同クラスの0歳女児(症例2)が19日時点で微熱と下痢がみられたため、医療機関を受診勧奨した。23日に医療機関での検便の結果、O26陽性の届出があった。そこで保育所と保健所および所管課にて対策会議を開き、感染拡大防止対策の指導を当該施設に行うとともに、0歳児クラスの園児の保護者に説明会および0歳児クラスの園児と職員を対象とした検便検査を実施した。25日に有症状者であった0歳児クラスの1歳女児(症例3)およびその兄3歳男児(症例4)について、医療機関での検査の結果O26が検出されたことが判明したため、26日に全園児、職員および患者家族に対する検便検査と保護者への説明会を実施した。

園児105名、職員32名、園児の家族28名、計165名の検便検査の結果、医療機関からの届出例を含め、園児11名および園児の家族2名、計13名からO26の陽性が確認された。菌陽性者の13名のうち、有症者は5名(いずれも園児)であり、無症状病原体保有者は8名であった()。当該施設は9月4日に専門業者による施設全体の消毒を実施した。その後新たな感染者は発生せず、9月28日には感染者の菌陰性化を確認した。

疫学調査
有症者の発症時間に一峰性は認められず、患者はすべて同園の食事を喫食していたが、患者は0歳児に偏っており、2歳児、4歳児および5歳児クラスでの発生はなかった。また、8月9〜8月26日までの保存検食および調理従事者の検便から病原体が検出されなかったことから、当該施設が提供した食事による集団感染ではないと判断した。このことから保育所内での人から人への感染に加えて家族内の二次感染が強く疑われたが、当該施設20カ所のふきとり検査の結果、すべて陰性であったため感染源および感染経路について特定するに至らなかった。

患者の症状
有症者5名の症状は、全員が軟便ないし下痢を有したが、血便は無く、うち3名は発熱があった。なお、入院を要した患者はなく、溶血性尿毒症症候群や脳症を合併とする重症者もみられなかった。

検査の方法および結果
直接分離培養にはCT-RMAC培地、RXO26培地を用い、ノボビオシン加mEC培地による増菌培養も併用した。検体量の増加に伴い途中からCT-RMAC培地に限定した。確定には、TSI、LIM培地等による性状試験、免疫血清試験を行い、PCR検査によりVT産生遺伝子およびVT型別を確認した。一部の検体についてはRPLA法も併用して毒素を確認した。検査の結果9名からO26:H— VT1を検出した。医療機関から提供された4菌株と当所で検出した9菌株はすべて運動性陰性のH—型であった。LIMによる性状試験もすべての菌株でリジン脱炭酸性が弱いなど特徴的な性状を示し、同一由来が疑われた。

考 察
一般的にO26の特徴として、症状は比較的軽症であるが、感染力が強いことが知られている。今回の事例においても症状は軽症であり、乳幼児は腸管機能が未発達なことから、感染症による下痢か否かの判断が困難なことも感染拡大の要因の一つと推察される。感染経路の可能性として、当該施設ではトイレを使用する際の履物の交換がなかったため、教室等の清潔区域の汚染が考えられた。さらに職員への衛生管理マニュアルの周知徹底が行われておらず、おむつ交換の手技や汚物の処理方法においても統一されていなかったことも感染要因と考えられた。施設は従事者に対し平常時から標準予防策を遵守させ、作業手順に不備がないかを定期的に確認を行い、衛生管理マニュアルの形骸化をさせないことが重要である。また、二次感染拡大防止には、全園児の保護者への注意喚起や施設の全面的な協力が必要不可欠である。今回の事例では保健所が行った初回の疫学調査において園児への感染拡大を予想し2例目を早期に把握でき、速やかに行った各関係者との対策会議の結果、当該施設と保健所および所管課の合同で行った説明会にて保護者とO26に対する共通認識が得られたこと、当該施設が専門業者による施設内の消毒を積極的に実施したこと等は、さらなる感染拡大防止につながったと考える。集団感染発生時には施設と患者およびその関係者、そして行政が協力し、迅速かつ積極的な取り組みが肝要であると思われる。

奈良市保健所 白川雅和 西川 篤 根津智子 松本善孝

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