トイレ、おむつ等を介し感染が拡大したと推察された保育園での腸管出血性大腸菌O26集団感染事例―千葉県
(Vol. 32 p. 140-141: 2011年5月号)

2010(平成22)年9月に長生保健所管内保育園で発生した腸管出血性大腸菌(以下EHECという)集団感染事例の概要を報告する。

管内医療機関からの13日の感染症発生届により、9日発症の5歳児のVT1&2産生EHEC O26(以下O26という)を探知した。また、同居家族6名のうち1名(自宅保育の1歳)に消化器症状があり、便検査でO26を確認した。当該5歳児の通園している保育園は、全園児5クラス78名、職員13名で、当初の聞き取りでは有症状で欠席をしている園児は4歳児クラスの1名のみであった。検査対象を、5歳児クラスおよび有症状で欠席している4歳児クラスの1名とその家族として、便検査を実施した。結果、園児3名(有症状0名)および家族2名(有症状2名)にO26を確認した。このことから集団感染の疑いが強まったため、すべての園児、職員、O26陽性園児の家族に検査対象を広げたところ、さらに園児6名(有症状2名)、職員2名(有症状0名)、家族1名(有症状0名)にO26を確認した(表1)。これらO26の16菌株すべてをパルスフィールド・ゲル電気泳動のクラスター解析をした結果、90%以上の相同性を示し(図1)、同一菌による集団感染を裏付けた。

症例定義を、この保育園の園児、職員、園児の家族で9月9日の前後2週間に、(1)便検査によってO26陽性が確認された者、あるいは、(2)消化器症状があり菌陽性者と明らかな疫学的リンクのある者とすると、症例は(1)が16名(有症状:園児3名、家族3名)、(2)が1名(園児1名)で合計17名であった(表1)。有症状者7名では初発症例が9月6日発症の4歳児で、この初発症例を含む園児4名が先に、家族3名がそれに引き続いて発症していた(表1)。O26の潜伏期を米国CDCのO157による1〜10日と同じとすると、潜伏期間中に園児4人全員が登園した日はないため感染源は給食ではなく初発症例の可能性が高いと考えた。なお、給食職員の便および9月3〜8日の給食の保存検食はすべてO26陰性であった。

園児のクラス別発生率では、5歳児および4歳児が高く、3歳児が0であった(表1)。園児の行動では、潜伏期間内にプールなどの共通の行事はなく、クラス間での接触は5時以降に3歳児クラスの部屋で行っている時間外保育のみであった。園児のトイレは3カ所で、4、5歳児クラス、3歳児クラス、および0〜1、2歳児クラスがそれぞれ使用しており、4、5歳児はトイレ使用後の手洗いを自分で行っていた。初発症例は、4、5歳児とはトイレで、0〜1、2歳児とは時間外保育で接触があり、感染した保育職員2名は0〜1、2歳児を担当していた。

以上より、初発症例からトイレの水道栓、手拭いタオル等を介して4歳児、5歳児クラスの園児に、また、利用していた時間外保育で何らかの経路を介して2歳児、0〜1歳クラスの園児に、そして2歳児、0〜1歳クラスの園児からおむつ介助等により保育士に、さらにこれらの園児から家族に感染が拡大したものと推察した。なお、初発症例は発症1週間前に動物園でヤギの便に接触していたが、初発症例の感染源とは断定できていない。

保育園では、排便処置を自分で適切にできない乳幼児が集団生活しており、腸管感染症が存在した場合は人−人感染により集団化しやすい、また、EHEC感染症のなかでもO26は特に不顕性感染が多く、その一方でEHEC以外の原因による有症者が存在する、このため消化器症状の有無で集団の調査範囲を決定することは困難である。したがって、本事例ではまず患児の家族およびクラスでの調査を実施し、O26陽性者を確認した後に調査範囲を園全体へと拡大した。保育園での調査においては、人権の保護、調査の負担にも考慮しなければならないので、その調査範囲は保育園での感染の拡がりやすさを考慮したとしても、初めから園全体とするのではなく接触の程度に応じて拡大する方法が有用と考えた。

千葉県長生健康福祉センター
一戸貞人 秋葉 繁 岡本恵子 棟方里香 三塚智子 山田裕康 安藤直史 中村 彰 森下和代
村上きみ代 田中良和 坂元美智代 高屋敷佳世 田村哲也
千葉県衛生研究所細菌研究室 横山栄二
千葉県衛生研究所感染疫学研究室 小林八重子 柴田幸治 石田篤史

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