2011(平成23)年3月22日、福島県東白川郡の60代の男性がツツガムシ病と診断され、翌23日、感染症法に基づく4類感染症としての届け出を行った。同時期、福島県内では東北関東大地震の発生直後であり、交通網の途絶、通信手段の制限等に加え、被災者の救護活動により、医療関係機関の関係者には過大な負荷がかかっている状況にあった。
患者は、3月6日より38℃台の発熱、頭痛および倦怠感が出現し、近医で加療されたが改善せず、3月10日になり全身性の皮疹に気づいたため、3月11日(震災当日)に白河厚生総合病院皮膚科を受診した。初診時、38℃台の発熱と頭痛があり、躯幹には辺縁が不鮮明な小指頭大程度までの暗赤色の播種状紅斑丘疹型中毒疹様の淡い紅斑が散在していた。ツツガムシ病が疑われる症状と皮疹であったため、刺し口を探したところ、右前腕に刺し口らしき暗赤色の紅斑がみられた。結果的には、発症の1週間前に川辺で草刈りの作業をしており、その際Orientia tsutsugamushi に感染したものと考えられた。
一般検査の主なものは、白血球5,300/μl(好中球66.2%、リンパ球20.9%、単球12.5%、好酸球0.1%、好塩基球0.3%)、血小板14.7/μl、 AST 61 IU/l、ALT 64 IU /l、LDH 394 IU/l、γ-GTP 100 IH/l、CRP 3.72mg/dl、蛋白尿(+)であった。3月11日と同月17日の血清について大原綜合病院附属大原研究所において 間接免疫ペルオキシダーゼ反応(IP)による 血清診断が実施され、O. tsutsugamushi に対する抗体価が有意に上昇していることが確認された(表)。検出された抗体の中では血清型Karpに対する抗体価が最も高い値を示した。
自然災害発生後の避難所等で注意されている呼吸器系、消化器系感染症のほか、本症例のように季節的に患者発生があり、ピークをむかえる感染症には注意が必要である。ツツガムシ病は、発熱、発疹、刺し口の3徴が臨床的な特徴であるが、必ずしも3徴がそろわない症例もある。また、ツツガムシ病では、他の多くの発熱性感染症と異なり、テトラサイクリン系の抗菌薬が第一選択薬となる。疑った場合は、実験室における特異的検査の結果を待たず治療を開始しなければ重篤な状況に陥ることがあることを忘れてはならない。
今回、福島県内では未曾有の震災と原発事故への対応のさなかにあり、検体搬送もままならない状況にあったが、3月22日に白河市から福島市へ向かう緊急車両があるとの連絡を受け、それに検体を便乗させる形で大原研究所に搬送することができ、直ちに検査が実施されたものである。季節性のある感染症の対応を迅速に行うには、第一例目を速やかに確定し、アラートを発することが重要である。
ツツガムシ病の全国統計では秋から初冬に大きなピークがみられるが、雪解けの春先にのみ発生ピークがある地域や、福島県のように春と秋の二峰性ピークの流行をする地域もある。ツツガムシ病は、洪水などの土砂災害の後に患者が増加することが過去の事例からも報告されている。患者が発生した白河地域は、従来、晩秋の患者発生が多いことが知られていた。本症例は同地域では春に発生するKarp型のO.tsutsugamushi に震災前に感染していたが、同地域では地震により大きな土砂災害が発生しており、今後、従来は患者が発生していなかった地域で春のツツガムシ病が発生する可能性がある。
本症例のツツガムシ病確定にいたる教訓から、福島県以外の被災地でも、もともと患者発生があったツツガムシ病発生の季節性の変化が起こる可能性があり、臨床現場での先入観のない対応が求められる。特に、ツツガムシ病の経験の少ない都市部からの多くの応援の医療関係者が現地にいる現在、注意を要する。また、これまで患者発生がない、または少なかった地域においても自然環境の大きな変化によって患者の増加がありうることも全国的に留意すべき点である。最後に、現在のような非常時における検体搬送を含めた各関係機関の連携、バックアップ、情報発信などについての準備または柔軟な対応が必要であろう。
白河厚生総合病院 竹之下秀雄