広島県内における海外からの輸入麻疹およびそれに引き続く関連患者の発生
(Vol. 32 p. 144-145: 2011年5月号)

2011年1〜2月にかけて、広島県内の保育園を中心とした麻疹集団感染事例が発生したので概要を報告する(図1)。

1)患者1:2歳女児。1月8日フィリピンより帰国、1月9日に発熱あり、11日に近医を受診したが風邪との診断で、11、12日は保育園に登園した(1月8,9,10日は土、日、祝日で保育園は休み)。15日に麻疹疑いのため基幹病院を受診し、症状から麻疹と診断された。

2)患者2〜5:同保育園園児、いずれもワクチン未接種。患者6:同保育園保育士、1歳時ワクチン接種歴あり。患者1からの二次感染と推定され、18〜23日までの間に発熱により次々と発症した。

3)患者7:10歳代男性。同流行地区の隣接地域に居住し、1月30日発症。明らかな疫学リンクは不明。

4)患者8:同一地域に住む1歳男児、2月3日ワクチン接種。2月4日発症、明らかな疫学リンクは不明。

5)患者9:同保育園園児、1月31日ワクチン接種。2月5日発症で患者2〜6からの三次感染と推定される。

6)患者10:1歳男児、2月2日ワクチン接種。2月5日発症、1月25日に患者3と同一病院を受診し、そこでの接触による三次感染と推定される。

患者から採取された検体は、広島市衛生研究所もしくは広島県立総合技術研究所保健環境センターにおいて病原体検査を実施し、リアルタイムPCRもしくはRT-nested PCRにより、いずれの患者からも麻疹ウイルス遺伝子が検出された。さらにN遺伝子の一部(456bp)についてシークエンスを実施したところ、すべての患者由来の麻疹ウイルスの塩基配列は100%一致し、D9型に属していた(図2)。フィリピン由来のD9型は2010年7〜8月の愛知、8〜9月の三重、11月以降の愛知での流行株、2011年横浜での検出株でも確認されているが、それらの株とは同領域で1〜4塩基異なる配列であった。

また、香川県から同時期に今回の患者発生地域に数日滞在し、感染したと思われる2月1日発症の患者がおり、検出されたD9型ウイルス塩基配列は今回の集団事例由来株と100%一致するとの情報も得ている。

麻疹ウイルスは感染力が強く、しかも重篤な疾患であるため、麻疹発生時には保育園や学校などの属するグループや医療機関で注意喚起を呼びかけ、蔓延防止策をとる必要がある。なお、今回のような輸入症例に引き続く集団発生を防ぐためには、1歳児のワクチン接種(1期)と小学校入学前の2回目のワクチン接種(2期)を確実に実施することにより、感染防御抗体を獲得し、麻疹ウイルスの伝播を断ち切ることが重要である。

 参考文献
1) IASR 31:271-272, 2010
2) IASR 31:327-328, 2010
3) IASR 32:45-46, 2011

広島市衛生研究所生物科学部
阿部勝彦 山本美和子 田中寛子 井澤麻由 笠間良雄 吉岡嘉暁
広島市感染症情報センター
片岡真喜夫 吉貞奈穂子
広島市安芸区厚生部健康長寿課健康長寿係
小山田 正
広島市南区厚生部健康長寿課保健予防係
片島俊雄
広島県立総合技術研究所保健環境センター
重本直樹 島津幸枝 谷澤由枝 高尾信一 福田伸治 松尾 健
広島県西部保健所広島支所厚生保健課保健対策係
真田美紀 間世田かおり 永岡 剛

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