アフリカからのデング熱輸入症例
(Vol. 32 p. 164-165: 2011年6月号)

デング熱およびデング出血熱はデングウイルスの感染によって引き起こされる。デング熱・出血熱の輸入症例は近年増加傾向にあり、2007〜2009年は100例前後が報告されていたが、2010年は245例と急増した。2008〜2010年における輸入症例の大半が東南・南アジアからの輸入症例であるが、アフリカからの輸入症例が4例確認された(図1)。アフリカにおけるデングウイルスの疫学情報が少なく、症状および渡航歴のみではデング熱・デング出血熱に似た症状を呈する他の疾患および他のウイルス性出血熱との鑑別診断が困難である。

症例1:65歳、男性。2008年5月19日〜6月17日までコートジボワールのアビジャンに滞在した。2008年6月19日に高熱、筋肉・関節痛、腹痛、嘔気を発症したため、入院した。6月20日に血小板減少(3.8万個/µl)および白血球減少(3,400個/µl)、肝機能上昇(AST=73 U/l、ALT=49 U/l)、出血傾向が出現した。デングウイルス非構造タンパク(non-structural protein 1, NS1)抗原検査の結果、NS1抗原陽性であった。発症6日目の検査でも血小板減少(1.8万個/µl)および肝機能上昇(AST=112 U/l、 ALT=68 U/l)が認められた。入院8日後に軽快退院となった。

症例2:55歳、男性。2010年1月20〜27日までタンザニアに滞在した。2010年1月31日に発熱、出血斑・発疹、関節痛、血小板減少(9.8万個/µl)が出現したため、受診した。発症3日目は、迅速診断キットを用いたデングウイルスNS1抗原の検査結果が陽性であった。

症例3:23歳、女性。2010年2月3〜25日までタンザニアのダルエスサラームに滞在し、ロンドン経由で2010年2月28日に帰国した。3月4日に発症し、発熱、発疹、関節痛、肝機能上昇(AST=154 U/l、ALT=73 U/l)、白血球減少(1,800個/µl)および血小板減少(4万個/µl)が主症状であった。発症2日目は、迅速診断キットを用いたデングウイルスNS1抗原検査が陽性であった。

症例4:28歳、女性。2010年7月24日〜8月3日までベナンに滞在中に蚊に刺された。2010年8月4日に日本に帰国し、翌日に発症した。発症2日目は迅速診断キットを用いたデングウイルスNS1抗原検査で陽性であった。発熱、頭痛、下痢、筋肉・関節痛、血小板減少(4.8万個/µl)を認めたため入院となった。数日後に症状が改善し、入院6日後に後遺症なく退院した1) 。

4例ともリアルタイムPCR (TaqMan Real-time PCR)によって型別診断が実施された。4検体すべてにおいてデングウイルス3型が検出された。ウイルスは蚊由来C6/36細胞およびFcγR発現細胞2) により分離が行われ、3株が分離された。ダイレクトシークエンス法3) によって分類されたウイルス株はすべてデングウイルス3型Genotype IIIに属し、3株間のホモロジーは98〜99%であり(図2)、アフリカでほぼ近縁なデングウイルス3型による広域流行が発生していることが示唆された。

タンザニアからの輸入症例を2例確認したことから、タンザニアでデング熱が流行していることが示唆された。本事例の報告後4) にタンザニア国内において17例のデング熱疑い患者が確認されたが、遺伝子解析は行われていなかった5) 。タンザニアはデングウイルスの感染リスクのある地域とされているが、デングウイルスの流行株解析および流行状況の公表はなかった。このように、日本の輸入症例から収集した情報が日本国内の感染症予防対策に重要であるとともにサーベイランスの確立していない地域にとって有用であることが示された。

デングウイルス3型 Genotype III株は広域流行を起こし、重篤なデング出血熱を引き起こす傾向がある6) 。出血熱を引き起こす要因はウイルスの病原性そのものに起因する場合、あるいはホストの免疫応答が重要であることが考えられている。デング出血熱は初感染と異なる血清型による再感染時に多く見られる。再感染リスク増加および症例増加の背景には、近年の流行地域の拡大および海外渡航の頻度・滞在期間の増加にあることが指摘されている。出血傾向が認められたコートジボワールからの輸入症例は、デングウイルスの感染による症状だが、コートジボワールでは2008年に黄熱の流行が報告されたと同時にラッサ熱およびエボラ出血熱の流行地域としても知られている。このため、アフリカからの出血熱輸入症例については、医療機関の迅速な対応および正確な鑑別診断が重要であり、診断時にデング熱輸入症例を考慮すること、またはデングウイルスNS1抗原迅速診断キットを効率的に実施されることが望ましい。

 参考文献
1) Ujiie M, ProMed, http://www.promedmail.org, archive no.20100826.3010, 2010
2) Moi ML, et al ., J Infect Dis 203(10): 1405-1414, 2011
3) Moi ML, et al ., Emerg Infect Dis 16(11): 1770-1772, 2010
4) Takasaki T, et al ., Promed http://www.promedmail.org, archive no. 20100323.0922, 2010
5) Klaassen B, ProMed, http://www.promedmail.org, archive no. 20100517.1620, 2010
6) Messer WB, et al ., Emerg Infect Dis 9(7): 800-809, 2003

国立感染症研究所ウイルス第一部 モイ・メンリン 高崎智彦
熊本市立熊本市民病院感染症科 岩越 一
川崎市立川崎病院感染症科 坂本光男
東京都立墨東病院感染症科 小林謙一郎
国立国際医療研究センター国際疾病センター 氏家無限

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