クイーンズランド州の北部は、デングウイルスが土着していないものの、媒介蚊であるネッタイシマカ(Aedes aegypti )が都市部に生息し、デング熱の流行が起こりやすい地域である。
国外から州北部へのウイルス血症を有したデング熱(ウイルス血症期;発症前1日〜発症後12日)の輸入例は、2009年に28例が確認され、過去最多であった。2008年は17例で、2009年に起きたアウトブレイク4事例中2事例は2008年から引き続いていた。
輸入例の57%(16)が東南アジアでの感染であり、年間を通じて感染がみられた。一方、南太平洋諸島の国々(サモア、バヌアツ、フィジー、クック諸島、トンガ)での感染は32%(9)であるが、全例が1〜4月の感染であった。他にパプアニューギニア(2)、インド亜大陸(1)であった。
ウイルスの血清型は、1型 6例、2型 4例、3型 6例、4型 8例と、すべての型が検出された。血清の交差反応により残りの4例は同定不能であったが、そのうちの1例は1型のアウトブレイクを引き起こし、別の2例はほぼ間違いなく4型で、いずれも南太平洋諸島の国で感染していた。南太平洋諸島での4型ウイルスの感染(8または10例)が急増しているが、これは2008年中頃以降この地域において広範にわたる4型ウイルスの流行とともに、州北部への南太平洋諸島からの移住者増加も影響している。
デング熱輸入例から起きたアウトブレイク2事例
事例1:28歳女性、バヌアツから帰国後、Cairns南部のInnisfailへ戻った後に体調悪化。翌日地元の近医を受診。初診から4日後にデング熱届出(後に4型ウイルスと判明)。媒介蚊のコントロール対策が施される前の6日間がウイルス血症期であり、アウトブレイクにより15週間にわたって35例の患者が報告された。
事例2:10月後半〜11月前半、Townsvilleの二つの地区でデングウイルスの地域内感染が発生。血清型はいずれも1型と確認後、2地区とも同一ウイルスであると判明。アウトブレイク調査により、64歳の男性が9月後半に東ティモールから帰国後に体調が悪化していたことが明らかとなった。発症5日後近医を受診したが、インフルエンザ様疾患と診断され、デング熱は疑われなかった。Townsvilleの感染者との強い関連が明らかとなり、後にデングウイルスの二次感染であることが判明した。
州北部地域では、病院での初診から州の公衆衛生当局へのデング熱患者届出にかかる日数の中央値が3日(0〜61日)である。1994〜1998年に届出された31の輸入例での中央値は 5.5日であり、届出の即時性は改善されてきている。この理由として、地元の医師らの意識が高まってきたことが大きいと思われるが、州北部にある2カ所の基幹病院検査室においてNS1抗原検査を最近導入したことも寄与していると推測される。
(Australia CDI, 34, No.1, 57-58, 2010)