2010年度(2010年4月〜2011年3月)に、県内(仙台市を除く)では67事例の感染性胃腸炎の集団発生があった。施設別の発生状況を表1に示す。幼稚園と保育所での集団発生が34事例で全体の半数以上(51%)を占め、次いで小学校での発生が20事例(30%)で、乳幼児や子供での発生が多かった。一方、介護保険施設での発生は6事例(9.0%)に留まった。病原微生物検出情報によれば、2006/07シーズン(2006年9月〜2007年8月)には老人ホーム(介護施設を含む)、病院、福祉養護施設での集団発生が多かったが、これらはシーズンごとに減少傾向が認められ、2009/10シーズン(2009年9月〜2010年8月)は保育所での事例が増加していると報告されており、この傾向は本県でも確認された。小学校の事例の中には、同じ学校で1カ月の間に2度発生が報告された事例があり、2回ともにGII/2のクラスターに属するノロウイルス(NoV)が検出された。月別の発生状況は12月が最も多く、全体の55%を占めた。
67事例から検出されたウイルスを図1に示した。NoVが全体の91%と圧倒的に多く、特に11月以降に発生した感染性胃腸炎事例からは、原因不明の2事例を除きGII群NoVが検出された。また、NoVとサポウイルスの混合感染が1事例確認された。
感染性胃腸炎の発生時期や地域を考慮して、検出されたNoV 34株を対象に分子疫学的解析を行った。その結果を図2に示す。検出されたNoVはすべてGII群で、GII/2が最も多く16株、次いでGII/3が11株で、例年最も多く検出されていたGII/4は3株であった。また、GII/6 が1株、GII/12が2株、GII/13が1株検出された。また、介護保険施設で集団発生した6事例のうち2事例から検出されたNoVの遺伝子型は、それぞれGII/4とGII/3であった。県内ではこれまでにGII/2やGII/3の検出はあったが、両遺伝子型ともNoVによる感染性胃腸炎の主流株ではなかった。2006/07シーズンに国内で大流行したNoVは免疫圧を逃れたGII/4変異株であることが示唆されていることを考慮すると、今後GII/2、GII/3による流行も危惧される。県内では東日本大地震で被害を受けた多くの住民が避難所で生活している。一部の避難所では断水しており、感染症対策が困難な状況にある。今後、避難所で感染性胃腸炎の流行が拡大しないように早急に対策を行う必要がある。
最後に、今回の震災で国立感染症研究所や多くの地方衛生研究所の方から、ご心配や励ましのお言葉をいただきました。心より感謝申し上げます。
参考文献
IASR 31: 312-313, 2010
宮城県保健環境センター微生物部
植木 洋 高橋由理 鈴木優子 阿部美和 佐藤由紀 沖村容子
宮城県保健福祉部疾病感染症対策室
高橋達也 佐藤 淳 豊嶋 潤 熊谷 祥
国立医薬品食品衛生研究所食品衛生管理部 野田 衛