幼稚園における細菌性赤痢の集団発生事例―福岡市
(Vol. 32 p. 171-172: 2011年6月号)

福岡市内の幼稚園においてShigella sonnei による集団感染事例が発生したので概要を報告する。

2011年2月21日に、市内A医療機関より4歳女児の、2月24日に市内B医療機関より4歳男児の細菌性赤痢の発生届が管轄保健所へ提出された。保健所が家族の聞き取り調査および検便を実施したところ、4歳女児の家族2名からShigella sonnei が検出された。これら2名の園児は同じ幼稚園の同じクラスに通園していたため、保健所は、当該幼稚園の聞き取り調査を行い、園児、職員および給食提供業者の検便を実施した。その結果、新たに6名の園児とその家族2名からS. sonnei が検出された。最終的には延べ504件の検体(園児については2回の検便を実施)が当研究所に搬入され、3月15日に本事例は終息した。

今回の集団感染事例では、園児8名と園児の家族4名の計12名からS. sonnei が検出された。本事例で分離されたS. sonnei  12株は、いずれも同一の生化学性状を示し、Ewingらの生物型分類では、ONPG(+)、マンニット(+)、D-キシロース(−)、オルニチンデカルボキシラーゼ(+)の性状を示し、ipaH invE 遺伝子を保有していた。また、いずれの株も、12薬剤〔アンピシリン(ABPC)、セフェピム(CFPM)、ナリジクス酸(NA)、ノルフロキサシン(NFLX)、テトラサイクリン(TC)、ストレプトマイシン(SM)、カナマイシン(KM)、クロラムフェニコール(CP)、スルファメトキサゾール/トリメトプリム合剤(ST)、ホスホマイシン(FOM)、セフォタキシム(CTX)、セフタジジム(CAZ)〕による薬剤感受性試験(K-B法)の結果、NA、TC、SMおよびSTの4薬剤耐性であり、パルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)(Xba I処理)試験においても同一パターン(図1)を示した。したがって、これらの解析結果から、本事例は同一の感染源であり、園児間および家族間での二次感染が発生したことが推察された。

近年、日本で発生している細菌性赤痢の多くは、国外感染およびそれらの感染者からの二次感染、あるいは輸入食品による食中毒であり、本市においても、2008年にベトナム産冷凍鮮魚介類による食中毒事例を経験した。今回の集団感染事例においては、S. sonnei が検出された園児の共通食は、業者が納入する給食と当該幼稚園で提供されたお茶とスープであった。この業者は、他の幼稚園にも同じメニューを提供していたが、他園からは健康被害の報告がなく、従業員検便(14名)の結果もすべて陰性であった。また、S. sonnei が検出された園児の教室は1階(教室は1階と2階に点在)に限られており、しかも初発園児と同じクラスに集中していた。したがって、今回の事例は食中毒ではなく、初発園児を含むクラスを中心とした園児間および家族間での二次感染であるものと考えられた。

細菌性赤痢は腸管出血性大腸菌と同様に、微量の菌により感染が成立するため、感染が拡大しやすく、特に保育園、幼稚園などの小児関連施設での集団発生が報告され、これらの事例の中では患者発生に伴う家族内の二次感染も多く発生している。したがって、二次感染のリスクが高い幼稚園などにおいては、排便後や食事前の手洗い、汚物の適切な処理、園内の定期的な消毒など、二次感染防止対策を厳格に実施することが必要である。

福岡市保健環境研究所
麻生嶋七美 本田己喜子 藤丸淑美 尾崎延芳 樋脇 弘

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