ウイルス性出血熱の特徴とエボラおよびマールブルグ病の流行
(Vol. 32 p. 190-191: 2011年7月号)

ウイルス性出血熱は日本では流行していない感染症である。しかし、その病原体の高い病原性やヒトからヒトへの感染性等から、輸入感染症として対策が求められている。

日本の感染症法において1類感染症に指定されているウイルス性出血熱の流行の特徴を表1にまとめた。また、中でもとりわけ致死率の高いウイルス性出血熱であるエボラ出血熱(Ebola hemorrhagic fever, EHF)とマールブルグ病(Marburg hemorrhagic fever, MHF)については,その流行の詳細も併せて報告する。

エボラ出血熱:1976年にスーダン南部とザイール(現コンゴ民主共和国)北部に約2カ月の間をあけて、それぞれ死亡率の高い出血熱症状を呈する疾患が流行した。スーダン南部の流行では計284名が発症、151名(53%)が死亡し、ザイール北部の流行では計318名が発症、280名(88%)が死亡した。この時に分離されたウイルスがそれぞれスーダンエボラウイルス(EBOV)とザイールEBOVである。エボラの名は、ザイールの流行時の第1例目の患者の出身村を流れるザイール川支流の名に由来する。その後も、コンゴ民主共和国、ガボン、ウガンダ、スーダンで比較的大きなEHFの流行が発生している(表2)。

EBOVの宿主は、アフリカ等に生息するオオコウモリ(Hypsignathus monstrosus 等)の臓器からザイールEBOVの遺伝子が検出されていることから、これらのオオコウモリが宿主と考えられている。

マールブルグ病:1967年8月西ドイツのマールブルグ市で、突如原因不明の熱性疾患の流行が発生した。ワクチン製造の過程で使用するためにウガンダから輸入されたアフリカミドリザルの組織、血液に接触した人々25名が発症、7名が死亡した。同じ頃、フランクフルト、旧ユーゴスラビアのベオグラードでも同様にサルに接触したヒトが熱性疾患を発症し、合計32名の患者が確認されている。これらの患者から分離されたウイルスが、それまで知られていたものとは異なるウイルスで、マールブルグウイルス(MARV)と命名された。2004〜2005年にアンゴラでMHFの大規模な流行が発生し(表3)(IASR 26: 215-217, 2005参照)、日本でも入国者への問診などの対応が取られた(IASR 26: 217-218, 2005参照)。MARVの宿主はウガンダの洞窟に生息するオオコウモリ(Rousettus aegyptiacus )の臓器からMARVが分離されたことより、EBOV同様オオコウモリがMARVの宿主であるとされている。

クリミア・コンゴ出血熱(CCHF):CCHFの病原体は、CCHFウイルス(CCHFV、ブニヤウイルス科ナイロウイルス属)である。Ixodes 属やHyalomma 属等のダニが保有するウイルスで、CCHFVは、感染ダニにより、ウサギ、ネズミ類などの小動物、ヒツジ、ヤギ、ウシなどの家畜・野生動物に伝搬され、また、感染動物からダニへ感染するという動物−ダニ間サイクルでも維持されている。ヒトは、同ウイルス感染ダニに咬まれて感染する場合と、感染動物(多くの場合、ヒツジなどの家畜)の血液、体液、臓器に直接接触して感染する場合とがある。北半球ではダニの活動が高まる4〜6月に流行する。南アフリカではヒツジの他にダチョウ等がヒトへの感染源になっている。CCHFVは、アフリカ、ヨーロッパ、アジアにかけて広く分布している。特記すべき事項として、トルコおよびインドのCCHFの流行が挙げられる。トルコでは、2002年に初めてこの感染症が確認されて以来、既に明らかにされているだけで1,300人を上回る患者が報告されている。また、2011年にインド北西部でもCCHF患者の発生が初めて確認された。

ラッサ熱(LF)および南米出血熱(SAHF):西アフリカのLF流行地では、毎年10〜30万人がラッサウイルスに感染し、およそ5,000人が死亡していると推定されている。SAHFの中でもフニンウイルスによるアルゼンチン出血熱患者は、ワクチンCandid #1が使用されるようになるまで、毎年約300〜1,000人の患者が報告されていたが、1990年代に入りCandid #1が使用されるようになってから患者は減少傾向にある。

国立感感染症研究所ウイルス第一部 西條政幸

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