続々と出現する出血熱ウイルス等
(Vol. 32 p. 193-195: 2011年7月号)

チャパレウイルス
南米出血熱には、アルゼンチン出血熱、ボリビア出血熱、ベネズエラ出血熱、ブラジル出血熱があり、その病原ウイルスは、それぞれフニンウイルス、マチュポウイルス、ガナリトウイルス、サビアウイルスで、感染症法で一種病原体に指定されている。2003年12月〜2004年4月にボリビアにおいて発生した小規模の出血熱の流行時に、患者から新種のアレナウイルスが分離され、発生地域のChapare(チャパレ)川にちなんでチャパレウイルスと名付けられた。チャパレウイルスは、分子系統解析によりサビアウイルスに近縁であることが明らかにされた(図1)。チャパレウイルス感染患者が少ないため、その臨床症状の特徴は明らかでないが、死亡した1名の患者は、発熱、頭痛、関節痛、筋肉痛、嘔吐に始まり、その後、重篤な出血熱症状と強い肝障害を呈したことから、他の南米出血熱に準ずると考えられる。チャパレウイルスは2011(平成23)年1月施行の感染症法の一部改正により、一種病原体等に追加された。

 参考文献
Delgado S, et al ., PLoS Pathog 4(4): e1000047, 2008

ルジョウイルス
旧世界アレナウイルスにはヒトに病原性を有するウイルスとして、リンパ球性脈絡髄膜炎(LCM)ウイルスおよびラッサウイルスがある。2008年9〜10月に南アフリカで5人が原因不明の出血熱症状を示し(うち4名が死亡)、患者検体からそれまで知られていない新種のアレナウイルスが分離され、Lujo(ルジョ)ウイルスと命名された。従来、西アフリカでラッサウイルスによるウイルス性出血熱(ラッサ熱)の流行が報告されていたが、アフリカ南部でアレナウイルスによる出血熱が報告されたのはこれが初めてである。分子系統学的にルジョウイルスはラッサウイルスやLCMウイルスとはかなり距離がある(図2)。最初の感染患者はザンビアのサファリツアー会社で働く女性で、2008年9月2日に発症し、治療のため9月12日に南アフリカに移送された(2日後に死亡)。この患者は発症前に馬との接触、ダニとの接触の可能性も指摘された。さらにこの患者の血液や体液との直接的接触により、2名の医療スタッフにも感染が拡がり、病室のクリーニングを行った1名も感染した。いずれも発症後死亡した。5人目の感染者は二次感染者の看護を担当した看護師であったが、発病後リバビリン治療を受け回復した。潜伏期間は7〜13日で初期症状として発熱、頭痛、筋肉痛などのインフルエンザ様症状を呈し、その後重症度が増すともに下痢、咽頭炎、麻疹様発疹が認められた。呼吸困難、神経症状、循環虚脱など急性増悪が認められ、発病後死亡までの期間は9〜12日であった。

 参考文献
Briese T, et al ., PLoS Pathog 5(5):e1000455, 2009

ブンディブギョエボラウイルス
これまで、エボラ出血熱の原因ウイルスとして、エボラウイルス(EBOV)の中でもザイールEBOV、スーダンEBOV、コートジボワールEBOVが知られていた。2007年8月〜2008年2月にかけてアフリカ東部のウガンダでウイルス性出血熱が流行し、37人が死亡した。その流行は新種のEBOVが原因であることが明らかにされ、Bundibugyo(ブンディブギョ)EBOVと命名された。分子系統解析により1994年にアフリカ西部で分離されたコートジボワールEBOVと比較的近縁であった(図3)。この流行はブンディブギョ県のセムリキ国立公園内の野生動物が感染源であると推測された。患者の血液や体液との接触により家族、親類、医療スタッフへ感染が拡がった。2〜21日の潜伏期のあと、発熱、筋肉痛、頭痛など、インフルエンザ様症状がみられ、次いで胸痛や腹痛、吐血、下血などの出血症状が起こる。嚥下障害、呼吸困難、発疹も50%以上の患者で認められた。致死率は34%(39/116)で、ザイールEBOV(80〜90%)、スーダンEBOV(約50%)のそれよりも低い。2011(平成23)年1月施行の感染症法の一部改正により、ブンディブギョEBOVは一種病原体等に追加された。

 参考文献
Towner JS, et al ., PLoS Pathog 4(11): e1000212, 2008
Wamala JF, et al ., Emerg Infect Dis 16(7): 1087-1092, 2010

発熱を伴う血小板減少症候群ウイルス
2011年中国疾病防疫センターにより、発熱を伴う血小板減少症候群(severe fever with thrombocytopenia syndrome, SFTS)の原因ウイルスとして新種のブニヤウイルス(SFTSウイルス、SFTSV)が分離、同定された。2009年3〜7月に、中国湖北省と河南省の山岳地域に住む農民の間で、発熱、血小板減少、胃腸症状、白血球減少を示す急性の疾患(致死率約30%)が報告された。患者末梢血よりウイルス培養が試みられ、その結果、イヌマクロファージ由来DH82細胞やサル腎由来Vero細胞でウイルスが分離された。電子顕微鏡で直径80〜100nmのウイルス粒子が確認され、その遺伝子構造から、ブニヤウイルス科フレボウイルス属に分類されることが明らかにされた。分子系統学上、フレボウイルス属はサンドフライ熱ウイルスグループ(リフトバレー熱ウイルス、プンタトロウイルスなど)とユークニーミウイルスグループに大別される。今回分離されたSFTSVはいずれにも属さず、第3のグループを形成していた(図4)。

2009年6〜9月に、中国中部、北東部で広く疫学調査が行われた。241例のSFTSV感染疑い例(河南省43例、湖北省52例、山東省93例、安徽省31例、江蘇省11例、遼寧省11例)があり、そのうち171例がRT-PCRや抗体検査で陽性を呈した。171例のうち21例が死亡(致死率12%)した。患者からの二次感染はなかった。健常者コントロールはすべて陰性を呈した。SFTSV感染が確認された患者81名の主な臨床症状は、発熱(100%)、食欲不振(75%)、疲労(65%)、吐き気(69%)、腹痛(49%)、嘔吐(47%)などで、検査所見では血小板減少(95%)、白血球減少(86%)が顕著で、AST、ALT、CK、LDHの上昇、タンパク尿、血尿などが認められた。

フレボウイルス属の多くのウイルスはスナバエにより感染が媒介される。ダニ、蚊により媒介されるウイルスもある(ユークニーミウイルス、リフトバレー熱ウイルス)。SFTSVの感染源を特定するため、患者居住地域のダニ等でRT-PCRによる遺伝子検査が実施され、Haemaphysalis longicornis (フタトゲチマダニ)186個体中10個体(5.4%)が陽性を呈した。これらのダニから検出されたSFTSV遺伝子は患者から分離されたSFTSVとは完全には一致していないが、非常に近縁のものであった。SFTSVが検出されたフタトゲチマダニは中国だけではなく、日本を含めアジア、太平洋地域に広く生息している。日本を含め、広い地域でSFTSV感染サーベイランスを行う必要性がある。

 参考文献
Yu XJ, et al ., N Engl J Med 364: 1523-1532, 2011

国立感染症研究所ウイルス第一部 福士秀悦 森川 茂 西條政幸

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