高知県で発生したNorovirus GII/14による食中毒事例と他県事例株との比較
(Vol. 32 p. 199-201: 2011年7月号)

1.高知県食中毒事例の概要
2011年2月19日〜3月2日の間、高知県M市内のHホテルに宿泊した大学の野球部員等63名中部員6名が3月1日(18〜24時)〜3月2日の間に嘔吐、下痢、発熱を主症状とする食中毒症状を呈した。発症者のうち4名が受診、うち2名が入院し、39℃の発熱や20回以上の嘔吐など、比較的症状が重い患者も認められた。食事はすべて同ホテルで調理されたものを喫食し、患者の共通食はホテルの食事のみであった。野球部員の発症者4名、ホテルの厨房関係従業員16名の便検体について、厚生労働省通知法によりNorovirus(NoV)遺伝子をリアルタイムRT-PCR法で調査したところ、発症者4名全員、ホテル従業員4名からNoV GIIが検出された。NoV陽性となったホテル従業員は全員ホテルの食事を喫食しており、そのうち3名は下痢および38〜39℃の発熱が認められるなど、比較的重い症状を呈し、発症日時は3月1日(18〜24時)〜3日(0〜6時)にかけてであった(図1表1)。野球部員の発症者4名の便検体について、黄色ブドウ球菌、サルモネラ属菌、病原性大腸菌O157・O26・O111、カンピロバクター、セレウス、腸炎ビブリオ(コレラ菌)、赤痢菌、エルシニアについて検査したが食中毒原因菌は検出されなかった。また、NoV陽性者8名の便検体について、サポウイルス、アデノウイルス、A群ロタウイルス、C群ロタウイルス、アストロウイルス、アイチウイルス、エンテロウイルス、ヒトパレコウイルス、ヒトカルジオウイルスについて検査したが、いずれも陰性であった。共通食は当該ホテルの食事のみであること、大学野球部員の発症者(NoV GII感染者)と同じ食事を取ったホテル従業員からNoV GIIが検出されたこと、ホテル従業者の発症日時が大学野球部員とほぼ同じであったこと、などから総合的に判断して、同ホテルを原因施設とするNoVによる食中毒事例と断定し、3月4日から3日間の営業停止処分および施設の清掃消毒、調理員等に対する衛生教育を実施した。本事例の原因食品は特定できなかったが、NoVの潜伏時間から2月27日〜28日にホテルで提供された食事と推定された。

2.遺伝子検査
NoV GIIが検出された8名の便検体について、COG2F/G2-SKRプライマーを用いたRT-PCR法によりポリメラーゼ〜カプシド領域を増幅し、ダイレクトシークエンス法によって塩基配列を決定後、MEGA4.1 1) により近隣接合法でカプシド領域の塩基配列について分子系統樹解析を行った。得られた分子系統樹評価のため、ブートストラップは1,000回実施した。NoV標準株はCaliciWeb(http://teine.cc.sapmed.ac.jp/~calicinew/)に登録公開されている株を使用した。本事例で検出されたNoV8株は、すべてNoV GII/14に分類された(表1)。また、8株の塩基配列は解析した領域(338nt)において100%一致した。

3.他の地域の集団発生事例由来GII/14株等との比較
他の地域で検出されたGII/14との異同性を調べるためにNESIDおよびCaliciWebに報告された集団発生事例(食中毒を含む)に由来するNoV GII/14株と本事例株を比較した。大阪府2株(2010年1、2月)、佐賀県1株(2010年3月)、静岡県静岡市1株(2010年4月)、北海道1株(2010年10月)の合計5株のポリメラーゼ〜カプシド領域の塩基配列(282〜338nt)は本事例の株と100%一致した(図2)。

また、GenBank登録株のBLAST検索によって得られた相同性の高い16株と比較したところ、2010年に韓国ソウルで検出された2株(HM635108、HM635109)と100%一致し、2006〜2009年にインド、シンガポールで検出された株と同一クラスターを形成した。しかし、2001〜2006年に日本国内(埼玉県、北海道、広島県)やフランス、インドで検出された株は別のクラスターを形成した(図3)。

4.考察
2006/07〜2009/10シーズンのIASRの集計2) によると、NoV GII/14は遺伝子型別された1,892株中5株を占めるに過ぎず、報告数が少ない遺伝子型であった。検出時期をみると2006/07〜2008/09シーズンは検出されず、いずれも2009/10シーズンに検出されている。今回、本県の事例を含む2010年1月以降の国内の集団発生事例から検出された6株について塩基配列を比較した結果、発生地が全国に散在していたにもかかわらず、解析領域の塩基配列が100%一致した。各事例間の疫学的関連性や株間の異同性については、疫学調査や長い領域の塩基配列の解析などの詳細な検討が必要であるが、2009/10シーズン以降に同一のNoV GII/14が全国に広がった可能性が高い。GenBankに登録されたNoV GII/14を含めた分子系統解析において、2006年以降の検出株と、2001〜2006年の検出株は、別のクラスターを形成した。2010年以降の日本国内のNoV GII/14は、同一クラスターに分類される株が2006年以降に海外で検出されていることから、海外から持ち込まれた可能性が示唆される。

今回本県で発生した事例では比較的症状が重い患者がみられた。食中毒菌やNoV以外のウイルスは検出されなかったことから、これらの症状はNoV感染によるものと思われる。他の事例では症状が重いとする報告はみられないが、遺伝子の変異が病原性の変化に関与している可能性もあり、今後のNoV GII/14の流行動向に注意する必要がある。

 参考文献
1) Tamura K, et al ., Mol Biol Evol 24: 1596-1599, 2007, DOI:10.1093/molbev/msm092
2) IASR 31: 312-314, 2010

高知県衛生研究所
細見卓司 谷脇 妙 松本一繁 藤戸亜紀 鍋島 民 下司 勲 松本道明 今井 淳
高知県安芸保健所 大野雅子
高知県中央東保健所 麻岡文代
北海道立衛生研究所 吉澄志磨
静岡市環境保健研究所 井手 忍
大阪府立公衆衛生研究所 山崎謙治 左近直美 中田恵子
佐賀県衛生薬業センター 増本久人 南 亮仁 野田日登美
国立医薬品食品衛生研究所食品衛生管理部 野田 衛
国立感染症研究所ウイルス第二部 片山和彦

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