サポウイルス、ノロウイルス、ロタウイルスが同時に検出された感染性胃腸炎事例―栃木県
(Vol. 32 p. 201-202: 2011年7月号)

県内で発生したサポウイルス(以下、SaV)による感染性胃腸炎の集団発生事例について、ノロウイルス(以下、NoV)、A群ロタウイルスが同時に検出されたので、その概要を報告する。

2011年3月26日に県内の障害者福祉施設から複数の入所者等が、下痢、嘔吐、発熱等の症状を呈しているとの連絡があり、保健所で調査を開始した。当該施設では、3月23日〜4月5日までに48人の発症者が確認された。発症者に重症者はなく、いずれも快方に向かった。発症者の発生状況を図1に示した。

原因ウイルス検索のため、発症者4名から採取した便検体4検体についてリアルタイムPCR法によりNoV遺伝子の検出を実施した(厚生労働省通知の方法に準拠)。このうち1件からNoV GIが検出されたが、検出数が1件のみと少ないこと、また、検出されたNoV遺伝子はコピー数が102コピー/g以下と有症者としては少ないことから、他の病原因子を検索することとした。リアルタイムPCR法(Okaらの方法に準拠)1) によるSaV遺伝子の検出、ラテックス凝集法によるロタウイルスおよび腸管アデノウイルスの抗原検出を実施した。その結果、SaV遺伝子2件、ロタウイルス2件を検出した。このうち、1件はSaVとNoVの複合感染、他の1件はSaVとロタウイルスの複合感染であった。この結果を受け、さらに調査が必要と判断され、発症者6名から採取した便検体を用いて、NoV遺伝子、SaV遺伝子およびロタウイルスの検出を試みた。その結果、新たに6件中3件からSaV遺伝子を検出した。最終的に検出されたウイルスは、発症者便10検体からSaV5件、NoV1件、ロタウイルス2件であった(表1)。

SaVの検出された検体は、カプシド領域のRT-PCR法(Okadaらの方法に準拠)2) を実施した。得られたPCR産物はダイレクトシークエンス法により塩基配列を決定し、系統樹解析を行った(図2)。系統樹解析の結果、検出されたSaV遺伝子5件は、得られた塩基配列が100%一致しており、GI/2 Potsdom株と近縁であった。2007年以降、県内で発生したSaVによる感染性胃腸炎集団発生事例は2事例あるが、系統樹解析の結果、GII/2とGII/3に分類されており、当該事例において検出された遺伝子型とは異なっていた。

今回の事例では、SaVを主要原因ウイルスとする集団発生事例であったが、同時にNoV、ロタウイルスも検出されていた。これらのウイルスが人−人感染により広がった可能性が考えられ、感染性胃腸炎患者の発生時には速やかな対応が重要となる。当該施設に対しては、施設利用者の健康管理、手洗い等の励行、患者発生時における汚物等の適切な消毒処理方法など、まん延および再発防止対策の徹底を指導した。県内の感染性胃腸炎集団発生事例は、その原因の多くをNoVが占めているが、近年SaVやロタウイルスによる集団事例も発生しており、今後も十分に注意が必要である。

 参考文献
1) Oka T, et al ., Med Virol 78: 1347-1353, 2006
2) Okada M, et al ., Arch Virol 151: 2503-2509, 2006

栃木県保健環境センター微生物部
大貫泉美 水越文徳 岡本その子 舩渡川圭次
栃木県安足健康福祉センター 松村京子 金子亜樹
栃木県保健福祉部健康増進課 永峯晃夫

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