2010/11シーズンに急増した赤血球凝集性が低いインフルエンザA(H1N1)2009ウイルス分離株―富山県
(Vol. 32 p. 197-198: 2011年7月号)

富山県衛生研究所では、2010/11シーズン中にインフルエンザウイルス246株を分離した。それら分離株について赤血球凝集抑制(HI)試験による型・亜型の同定を試みたところ、分離時にMDCK細胞に明瞭な細胞変性効果が観察されたにもかかわらず赤血球凝集(HA)活性が著しく低い株が多く、これらの株はリアルタイムRT-PCRによる型・亜型の同定に頼らざるを得なかった。同定の結果、低HA価を示す分離株はいずれもA(H1N1)2009(以下AH1pdm09)であったことから、AH1pdm09ウイルスに何らかの変異が生じている可能性が考えられた。そこで、2009/10および2010/11シーズンのAH1pdm09分離株の性状を解析したので報告する。

2009/10シーズンの分離株88株および2010/11シーズンの全分離株121株について、0.75%モルモット赤血球浮遊液を用いてHA価を測定した。その結果、2009/10シーズン分離株の55%は8HAないしは16HAであったが、8HA未満の株も31%みられた。一方、2010/11シーズン分離株では8HA未満の株は79%にのぼり、今シーズンに入って低HA価の分離株の割合が増加したことが明らかになった(図1)。

インフルエンザウイルスでは、ウイルス液を希釈せずに継代をくり返すことによって欠陥干渉(DI)粒子が容易に産生される1) 。そこで、8HA未満と8HA以上の初代分離株各10株について、10-2〜10-4希釈により再継代して得たウイルス液のHA価を測定した。その結果、いずれの希釈列においてもHA価の明らかな上昇がみられないことから(表1)、低HA価はDI粒子の産生によるものではないと考えられた。また、七面鳥、ガチョウ、ニワトリの各血球を用いても継代によるHA価の上昇は認められなかった。

ノイラミニダーゼ(NA)活性が高い株では、HAの測定中に管底の凝集像が消失することがある。そこで上述の20株について、NA活性を抑えるために4℃下でHA価を測定した。その結果、いずれの株も1〜2管のHA価の上昇がみられたが、室温で低HA価だった10株のうちHI試験可能なHA価(8HA)に達したのは3株のみであった。これら3株の抗原性はいずれもワクチン株A/California/7/2009pdm株と類似であった。

HA遺伝子の系統樹解析では、低HA価(2HA以下)の分離株はA197Tのアミノ酸置換を有する分枝を形成した。さらに、このクレードは2009/10シーズン分離株からなるサブクレードと2010/11シーズン分離株からなるサブクレードを形成し、後者はS185Tのアミノ酸置換を伴っていた。

HA蛋白の197番目のアミノ酸はレセプター結合部位の近傍に位置することから、このアミノ酸置換が今回みられたHA活性の低下に何らかの影響を与えている可能性が示唆された2) 。富山県では、2011年の第18週にインフルエンザ患者数が定点当たり0.71人となり、インフルエンザの流行はほぼ終息した。しかし、来シーズン以降も低HA価のAH1pdm09ウイルスが流行株の主流になった場合は、中和試験による抗原解析も検討する必要があると思われる。

 参考文献
1) Nayak DP, et al ., p269-317, In Krug RM (ed), The influenza viruses, Plenum Press, New York, 1989
2) Paleas P and Shaw ML, p1647-1689, In Knipe DM et al . (ed), Fields Virology 5th ed, Lippincott Williams & Wilkins, a Wolters Kluwer Business, Philadelphia, PA, 2007

富山県衛生研究所 小渕正次 堀元栄詞 小原真弓 岩井雅恵 滝澤剛則 佐多徹太郎

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