2010年の感染症発生動向調査における兵庫県の手足口病患者の報告数は、第27週に定点当たり7.2人のピークを示し、2000年の同時期のピーク10.8人以来の流行であった。2010年は病原体定点医療機関から、手足口病患者23名の検体が搬入され、8月までに採取された検体からは14株のエンテロウイルス71型(EV71)が検出され、ここまでの病因の主体と考えられた。一方、10月以降に採取された3名からはすべてコクサッキーウイルスA6型(CA6)が検出され、EV71は検出されなかった。
2011年は、第20週から手足口病患者は増加傾向を示し、第25週に定点当たり7.0人となり、2010年の同時期を超える状況となっている。2011年は5月末までに病原体定点から1月に2名、2月に2名、3〜5月に各1名の、計7名の手足口病患者の検体が搬入され、7名全員からCA6が検出された。このため、昨年の10月以降手足口病患者から検出されたのはすべてCA6である。その他にヘルパンギーナ患者1名からもCA6が検出された(表)。
PCR法でCA6の遺伝子を検出したいずれの検体からもRD-18SおよびVero-E6細胞でウイルスは分離されなかった。ウイルスの検出は、プライマーEVP4とOL68-1 1) を用いたPCR法でエンテロウイルスの5´非翻訳〜VP2領域(650bp)を増幅した。今回の11株のCA6のVP4コード領域(207bp)の塩基配列は、2009年に中国で検出されたCA6(GenBank No.HQ005435)と97.1〜99.0%の相同性を有しており、これらの株間で同領域のアミノ酸配列に違いは認められなかった。過去に兵庫県で検出されたCA6で最も塩基配列が近かったのは2003年の検出株 2) (GenBank No.AB179695)であるが、これとのアミノ酸配列の一致率は97.1%(67/69)であった。
最近の手足口病患者の中に典型的な手足口病とは異なる発疹像が認められることがあるが、これがCA6に起因する症状なのか否かについてはさらなる検討が必要である。手足口病患者は夏場に向けてさらに増加することが予想され、今後の手足口病患者等からのCA6検出状況およびそのウイルスの性状を注視する必要がある。
参考文献
1) 石古博昭,他,臨床とウイルス 27: 283-293,1999
2) 藤本嗣人,他,臨床とウイルス 33: 141-145,2005
兵庫県立健康生活科学研究所感染症部
榎本美貴 高井伝仕 近平雅嗣
国立感染症研究所
花岡 希 岡部信彦 谷口清州 清水博之 藤本嗣人
岡藤小児科医院 岡藤輝夫 岡藤隆夫
兵庫県立塚口病院 飯尾 潤
たなか医院 田中一宏