ライム病の実験室診断
(Vol. 32 p. 223-224: 2011年8月号)

わが国におけるライム病の実験室診断として、病変部からの病原体検出(分離培養、ボレリアDNA検出)、抗体検査が行われている。

病原体の検出
病原体ボレリアの分離培養にはBSK培地が用いられている。紅斑部からの皮膚生検ではボレリアが分離可能である。橋本ら(元旭川医科大学皮膚科学教室)は、皮膚生検部位の選択は遊走性紅斑(EM)においてはマダニ刺咬部(中心部)でも紅斑辺縁部でも培養率は変わらないことを報告している。以下橋本らの皮膚生検法を記載する。

消毒は通常10%イソジン液および10%ハイポアルコールで行い、局所麻酔は 0.5〜1%キシロカインで浸潤麻酔を行う。その際、出血を防ぐ意味で10万倍エピネフリン添加を使用してもよい。皮膚の切除は鋭利なメス(15番メス)で、長軸約0.6〜1cm、短軸0.3〜0.5cmの紡錘形に切開線を加え、表皮、真皮、皮下脂肪織(少量でよい)の3要素を含むように切除する。ボレリアの培養は、切除した組織の半量で充分可能であり、半量は病理組織検査に使用する。切除後は5-0ナイロン糸等で一次的に縫合すればよい。皮膚切除は3〜8mmのトレパンによるパンチ生検でも充分であり、この後の縫合は一般に必要ない。ただし部位によって創の開きが大きいときは、5-0ナイロンで1針あるいは2針縫合しても良い。切除した組織はすぐ培養ができない場合(輸送が必要な場合など)は、滅菌シャーレ内に、滅菌生理食塩水で浸した滅菌ガーゼで組織を包んでたたんでおく。これらは無菌的に行い、4℃保存すれば2〜3日間放置してもボレリア培養は成功することが多い。EM部位からの病原体DNA検出も有効である。

欧米では脳脊髄炎患者の髄液からも稀に病原体が分離されているが、わが国では髄液からボレリアが分離もしくはDNA 検出された報告はない。血液からの分離は難しいが、米国では急性期で未治療の患者全血(約20ml)を用いることで分離頻度が上昇するとする報告がある。国内感染例および欧州における血液からの病原体検出感度は不明である。

血清診断
本邦では輸入例、国内例ともにみられるため、それぞれに適した血清診断用抗原を選択する必要がある。北米からの輸入例が疑われる場合には、血清診断はコマーシャルラボ経由で米国の臨床検査ラボ(ARUP、Mayo Lab)にて行える。欧州からの輸入例および国内例では国立感染症研究所・細菌第一部で検査が可能である。ライム病の抗体検査は、急性期では陰性になることが知られている。特に感染後2ないし3週間は血中抗体の上昇が見られないことが多いことから、慢性期を除き、ペア血清による確認が望ましい。中枢神経症状(髄膜炎、脳炎等)を呈した症例では髄液中の抗体検査も行われている。米国ではCDCの推奨する2-Step法(EIA法によるスクリーニング検査後、陽性例についてはウエスタンブロット法で確認する)が用いられている。わが国においても米国同様、ウエスタンブロット法による確定検査が行われている。

ライム病症例における髄液中のCXCL13定量の意義
髄膜炎症例における髄液中のCXCL13値上昇もライム病(神経ボレリア症)の診断として有効である可能性が示されている1) 。ライム病患者においては、感染早期では抗体上昇が見出されにくいことが知られている。この間、中枢性の神経症状を呈した神経ボレリア症患者では抗体検査等では適切な診断が行えないことが病原診断で問題となっていた。CXCL13は単球で発現・放出されるケモカインの一種で、B細胞等の遊走因子であり、神経ボレリア症患者髄液中でCXCL13濃度が上昇していることが示されていた2,3) 。van Burgelら4) は髄膜炎を呈したライム病患者においては、診断精度は感度、特異性ともに85%以上(cut off値250pg/ml、CSF)であることを報告している。一方で、クリプトコッカスやHIV等感染による中枢神経炎、また自己免疫性疾患(多発性硬化症など)においても同様に髄液中のCXCL13濃度が上昇することから、これらによる陽性を生じる可能性を示している4) 。以上のことから、CXCL13値の上昇は、抗体上昇までのwindow periodにおける神経ボレリア症の補助診断として有効であると考えられる。

 参考文献
1) Kingwell K, Nat Rev Neurol 7: 244, 2011
2) Rupprecht TA, et al ., Neurology 65: 448-450, 2005
3) Ljøstad U and Mygland A, J Neurol 255: 732-737, 2008
4) van Burgel ND, et al ., J Clin Microbiol 49: 2027-2030, 2011

国立感染症研究所細菌第一部 川端寛樹 大西 真

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