ヘルパンギーナやインフルエンザといった特定の疾患に含まれない、いわゆる“かぜ症候群”の検体として、これまでは咽頭炎や上気道炎などの診断名のものが多数を占めていた。しかし、最近1年間(2010年5月〜2011年6月)の病原体サーベイランス定点の小児科から持ち込まれた検体を俯瞰すると、咽頭炎・上気道炎由来のものが54検体であったのに対し、気管支炎、または肺炎と診断されたものが224検体と、4倍以上にのぼり、呼吸器感染症の様相が変化しつつあるように思われる。また、これらの下気道疾患の中で喘息の併記があるものが68検体と、3割近くに及び、咳が遷延する傾向が推察される。本稿では、上記の気管支炎・肺炎由来の検体から検出されたウイルスの推移について報告する。
検体は咽頭ぬぐい液、または鼻腔吸引液で、ロシュ製MagNA Pure LC 2.0を用いて核酸を抽出した。ライノウイルスについては、「J Clin Microbiol 37: 2813-2816, 1999」記載のRT-PCRを、ヒトメタニューモウイルス(hMPV)については、「J Clin Microbiol 43: 1411-1414, 2005」記載のReal-time PCRを、パラインフルエンザウイルス(PIV) 1〜4型とRSウイルス(RSV)については、「J Clin Microbiol 42: 1564-1569, 2004」記載のReal-time PCRをそれぞれ用いて検出を試みた。
検出ウイルスは図1に示したとおりであり、2010年10月をピークとしたライノウイルスの流行が目立っている。この時期には診断名に喘息が併記された検体が多く、2010年9月(6検体)、10月(20検体)、11月(7検体)であった。ライノウイルスは基礎疾患を持たない子どもに感染しても軽症で経過するのに対し、アレルギー等の喘息体質を持つ子どもが感染すると気道狭窄を引き起こして重症化するなど、異なった病態を示すことが知られている。
図2は検体添付の調査票に喘息の記載があったものと無かったもので検出ウイルスの差異を比較したものであり、ライノウイルスが喘息発症の重要な因子であることが見て取れる。今回の調査で“不検出”となった検体については、エンテロウイルス、アデノウイルス、インフルエンザウイルス(A型、B型)、およびマイコプラズマ・ニューモニエの検出も試みたが陰性であった。他の病原体の可能性も当然残るが、春〜初夏にかけての検体で”不検出“のものが多いことから、花粉アレルギーで受診した患者のものが含まれていることも考慮すべきである。気管支炎・肺炎の多発傾向が一過性のもので終わるか、今後も定着するかについては継続的な調査で明らかになってゆくものと思われる。
秋田県健康環境センター
斎藤博之 佐藤寛子 秋野和華子 藤谷陽子 安部真理子