2011年の広島市における手足口病の定点医療機関からの患者報告数は、第16週から増加傾向を示し、第27週には定点当たりの患者報告数が16.7人に達し、例年に比べ多い状態で推移している(図1)。手足口病は、数年おきに比較的大きな流行になる傾向があり、特に2003年と2005年の夏は大流行した。今年は2005年以来の大きな流行となっている(図2)。
当所では、麻疹等の鑑別診断や細胞培養での未分離に対応するため、検査依頼票の症状に発疹、水疱、髄膜炎、けいれん等の記載がある場合にはエンテロウイルス(EV)リアルタイムPCR を実施している。今回、広島市での手足口病流行にあわせて、手足口病だけでなく他の疾患からもコクサッキーウイルスA6型(CA6)が検出されたので報告する。
検体は咽頭ぬぐい液、鼻汁、髄液、糞便等を用い、RNA抽出、ランダムプライマーによりcDNAを合成後、EVリアルタイムPCR 1) を実施した。陽性の検体はさらにVP4-VP2部分領域を増幅するEVP4/OL68-1 2) プライマー、もしくはVP2部分領域を増幅する(Nasriらの方法3) )1st AM1112/3132プライマー、2nd AM2122/3132プライマーでPCR後、ダイレクトシークエンスにより塩基配列を決定した。
患者の詳細および検査結果は表のとおりである。決定した塩基配列をBLAST検索した結果、CA6(AY421764)と82%の相同性で、その他のEVとの系統樹解析と併せてCA6と決定した(図3)。今回検出した株内では292塩基中1〜4塩基の違いがみられたが、アミノ酸変換後は2010年検出株も併せて100%一致した。手足口病患者6名、ヘルパンギーナ2名、その他の発疹症3名のほか、脳症、髄膜炎、けいれん患者各1名からもCA6が検出された。リアルタイムPCRのct値が40以下であれば、その後のシークエンスのためのPCRで検出可能であったが、40を超えるct値ではsemi-nested PCRでも検出できなかった。また、EVP4/OL68-1プライマーでは検出されないことが多く、Nasriらの方法では1st PCRの段階でも十分にバンドは確認できた。
手足口病流行時、その中でもEV71流行時には無菌性髄膜炎や脳炎等の重篤な疾患の原因となる可能性があるとされるが、今回のCA6でも同様な注意が必要かもしれない。また、A群コクサッキーウイルスは細胞培養では分離されないことが多いため、手足口病やヘルパンギーナだけでなく、その他のEVが疑われる疾患についても、リアルタイムPCRを積極的に活用し、病原検索を行う必要があると思われた。
参考文献
1) Corless CE,et al ., J Med Virol 67(4): 555-562, 2002
2) Ishiko H, et al ., J Infect Dis 185: 744-754, 2002
3) Nasri D, et al ., J Clin Microbiol 45: 2370-2379, 2007
広島市衛生研究所生物科学部
阿部勝彦 山本美和子 藤井慶樹 田中寛子 橋本和久 笠間良雄
広島市感染症情報センター
片岡真喜夫 吉貞奈穂子