2011年6月頃より静岡県中部に流行している手足口病は、従来の手足口病とは臨床像が異なるため、ウイルス学的検討をおこなった。その結果、15症例の咽頭ぬぐい液(一部の患者については直腸ぬぐい液も採取)すべてからエンテロウイルスがPCRで検出された。それらPCR増幅産物を遺伝子解析したところ、VP4およびVP1コード領域のいずれの領域を用いてもコクサッキーウイルス(CA)6型と同定された。
本報告では、これらの手足口病15症例の臨床症状・経過について、これまでの手足口病との相違点を含めて報告する。
年齢分布は10カ月〜9歳(平均2.5歳)だが、3歳未満が70%を占めた。発熱あるいは発疹で発症し、全例で発熱(38.2〜40.0℃、平均38.9℃、平均有熱期間1.43日)を認め、発熱率が高い(通常約40%)。口腔粘膜疹は2病日より確認でき、ヘルパンギーナ様であるが軽度で、通常の手足口病より口内痛や拒食の頻度は少ない。3病日には四肢や臀部に紅暈を伴う水疱性病変が出現するが、手掌や足底にはむしろ少なく、上腕、大腿部および臀部に高頻度に認める(図)。また、通常の手足口病にはみられない口囲や頸部周辺にも皮疹を認める。水疱は扁平で臍窩を認め、従来の手足口病より大きい印象で10mm以上に及ぶものもあり、数日の経過で痂皮化し治癒する。いずれの症例も合併症は認めなかった。
症例1(6歳2カ月 女児):先行発症した弟から3日遅れて発症。38.2℃の発熱が1日みられたが全身状態良好。皮疹は大腿後面、臀部に多発、下腿〜足底は僅かであった。口内粘膜疹少なく拒食もみられなかった。合併症なく全身状態良好のまま7日間の経過で治癒した。
症例2(1歳3カ月 女児):39.4℃の高熱が1日認められた。皮疹は下肢に多く、足底・下腿より大腿部に著明であった。皮疹は水疱性病変で第6病日には結痂し、その後合併症なく治癒した。
従来の手足口病は、CA16、エンテロウイルス71、CA10などが主要な病原体として報告されており、本年のようにCA6を主体とした流行は初めてのことである。手足口病は流行年により臨床像に違いがあることが1970年代から報告され1) ているが、今回のCA6による手足口病は過去に報告されているものと臨床像が異なる。2011年のCA6による手足口病の臨床的特徴について症例の集積検討が必要であると思われる。
CA6による手足口病の臨床的特徴をまとめると、1)従来の手足口病と発疹の出現部位が異なり、2)水疱は扁平で臍窩を認め、これまでより大きいこと、の2点がその特徴と考える。
また、CA6は本年になって急増し、かつ手足口病を引き起こしていることが全国的に報告されているので今後の動向に注意が必要と思われる。
参考文献
1) 渡辺悌吉、臨床とウイルス 2: 76-80, 1974
小林小児科 小林正明
国立感染症研究所感染症情報センター
藤本嗣人 花岡 希 小長谷昌未 安井良則 谷口清州 岡部信彦