佐賀県では、2011年5月中旬以降、手足口病による定点患者報告数の増加が続いており、その病原体の検出状況および分子疫学的解析などについて報告する。
今回、県内の手足口病による定点当たり患者報告数は第20週(5/16〜5/22)から2.30人と例年より やや早く増え始め、第24週(6/13〜6/19)には12.26人と大きく増加し、第27週(7/4〜7/10)には42.26人と著しく多い患者報告数を示した。これは感染症法に基づく感染症発生動向調査を開始した1999年以降、佐賀県では最も多い定点当たりの患者報告数と発生状況であった。
病原体の検出法については、小児科定点などから手足口病と診断された患者検体(咽頭ぬぐい液、糞便)をNixらの方法1,2) によるエンテロウイルスVP1領域遺伝子を高感度に増幅するCODEHOP PCR法を実施した結果、31検体中24件にAN89/AN88プライマーで増幅された陽性バンドを確認した。さらに、この陽性産物をダイレクトシークエンス法により塩基配列を決定し、同定を行った。また、陽性検体間の塩基配列比較およびBLAST検索(GenBank登録株)から得られた近縁株と塩基相同性比較等の分子系統解析を行った(表1、図1)。
分子系統樹解析の結果、手足口病患者から検出された病原体24件のうち、コクサッキーウイルスA(CA)16の基本株(prototype)であるCA16-G10[U05876]株の分枝領域下に15件が位置していた。また、6件がCA6の基本株であるCA6-Gdula[AY421764]株の分枝領域下に位置していた。その他、BLAST検索によりエコーウイルス3型(Echo 3)1件、ライノウイルス1件を確認したが、件数が少なく系統樹解析は省略した。また、1件はシークエンス法での塩基配列の決定が難しく解析不能例とした。
遺伝子型別による検体間の塩基配列比較では、CA16(337bp)は15件中1件を除く14件が98〜100%の相同性を示していた。CA6(334bp)の6件は96〜100%の相同性であった。
BLAST検索による近縁株との塩基相同性比較では、CA16の15件中14件が2005年にマレーシアで検出された SB16087/SAR/05[AM292476] 株に93〜94%の相同性を示し、残り1件は2007年に中国で検出されたGS006/GS[GQ429235]株に近縁で相同性は96%であった。CA6の6件は2010年にフィンランドで検出されたFIN08/So244[GU248469]株に96〜98%の相同性を示していた。その他、Echo 3の1件は、2010年に福岡県で環境水から検出・登録された[AB601182]株に近縁で98%の相同性を示した。
佐賀県では2007年にも手足口病による流行でCA6を検出し報告3) を行ったが、今回の流行では県の中部〜中西部地区でCA16、東部地区でCA6が検出され、両ウイルスの混合流行となっている。また、本調査の感染者も主に0〜5歳未満の乳幼児に多く、保育所や幼稚園などの集団施設での感染が多いとの推定から、徹底した感染予防対策が必要であり、病態解明についても継続した病原ウイルスの分子疫学的な分析・調査が重要であると思われる。
参考文献
1)Nix WA, et al ,, J Clin Microbiol 44: 2698-2704, 2006
2)西村順裕、他、 IASR 30: 12-13, 2009
3)増本久人、他、 IASR 28: 225-226, 2007
佐賀県衛生薬業センター
増本久人 南 亮仁 野田日登美 甘利祐実子 諸石早苗 江口正宏 古川義朗 田清典
国立感染症研究所ウイルス第二部 吉田 弘