コクサッキーウイルスA6型による手足口病の成人例―大阪府
(Vol. 32 p. 231: 2011年8月号)

2011年シーズンにおいて、大阪府では第20週目から府内全域で手足口病の患者報告数が増加し始め、第28週(7月11〜18日)には、定点当たりの報告数が14.7となっている。今シーズンの手足口病は2000年以来の大流行となっているが、原因ウイルスは全国的にコクサッキーウイルスA6型(CA6)が主流である。大阪府においても、7月19日現在、感染症発生動向調査病原体定点医療機関からの手足口病疑い患者検体の26検体中17検体(65%)からCA6が検出されている。また、今シーズンの手足口病の臨床像は皮膚症状が重篤で、水疱が口周囲、手掌、足底だけでなく、太ももや腹部にまで広範囲に出現するという報告が相次いでいる。しかし、患者は小児が主であり、このことに関しては通常の手足口病の好発年齢と大差ない。第27週に入り、大阪府では家族内感染が疑われる成人の手足口病患者よりCA6が検出されたので報告する。

症例は29歳10カ月の女性で、1歳7カ月の女児と夫の三人家族である。児は6月30日、食欲の低下および発熱(39.4℃)がみられた。翌7月1日には36.8℃に解熱したが、念のため、保育園を休んだ。7月2日、児の手、指、臀部に発疹が出現し、4日、かかりつけの小児科にて手足口病と診断されたが、その後発疹は広範囲に広がる様子はなく、回復に向かった。

一方、母親は7月5日の夜中に悪寒、頭痛、のどの痛みおよび発熱(39.2℃)を自覚した。翌6日夕方頃まで39℃を超える高熱が続き、のどの痛みが治まらなかったため、近傍の内科を受診した。咽頭部に化膿が見られたことより、溶連菌感染が疑われ検査を実施したが陰性であった。この時点では感冒様の症状と診断され、解熱鎮痛剤および抗菌薬を処方された。7日、36.8℃まで解熱したが、手掌に発疹が出現し、8日には手指全体、外耳、膝に水疱が広がり、強い痛みを感じるようになった。同日、児のかかりつけである小児科を受診し、手足口病と診断され、夜には腹部に発疹が広がった。10日、複数の口内炎および足裏に水疱が出現し、19日現在、崩壊した手指の水疱痕の痛みは継続している。

7月8〜11日に母親より咽頭ぬぐい液、鼻腔ぬぐい液および家族全員の糞便を採取した。採取した検体についてエンテロウイルスのVP1領域1, 2) を増幅するRT-seminested PCRを実施した結果、母親の咽頭ぬぐい液(7月8日採取)、便(7月10日採取)および児の便(7月8日採取)検体が陽性となった。増幅産物約450bpについてダイレクトシーケンスを実施したところ、3検体の相同性が100%一致し、VP1部分領域遺伝子解析および既報告のCA6株との相同性解析によりCA6と同定された。

このことにより、本症例は児から家族内感染で母親が発症した事例と推測できる。患者の免疫状態等により発症状況は異なるが、小児よりも成人で症状が重篤になった事例として興味深い。通常、成人では手足口病の発症の頻度は多くないとされているが3) 、感染症発生動向調査による報告は、小児科定点からのものがほとんどであるため、成人の流行状況は正確には把握されていないと考えられる。一方で近年、手足口病の成人発症例が散見されており4-6) 、エンテロウイルス71型が原因の手足口病では、成人においても重篤な中枢神経合併症が報告されている7) 。

本事例においては、母親の臨床診断は当初、感冒であった。受診医療機関によっては、成人の手足口病患者の診断が困難な可能性があるため、成人における流行状況を正確に把握することは重要であると思われる。

今後、今シーズンのCA6の手足口病の臨床症状の特異性とウイルスの抗原性の関係を調査するため、ウイルス分離を実施し、詳細な解析を実施する予定である。

 参考文献
1)Oberste MS, et al ., J Virol 73: 1943-1948, 1999
2)Oberste MS, et al ., J Clin Microbiol 37: 1288-1293, 1999
3)国立感染症研究所感染症情報センターホームページ 「手足口病とは?
4)斎藤謙悟、他、 Chiba Medical Journal 80(2): 82, 2004
5)山崎謙治、他、 IASR 31: 104, 2010
6)W-C Tai, et al ., B J D 160(4): 890-892, 2009
7)Hamaguchi T, et al ., Emerg Infect Dis 14(5): 828-830, 2008

大阪府立公衆衛生研究所 中田恵子 山崎謙治 加瀬哲男

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