2010年度風疹血清疫学調査ならびに予防接種率調査―2010年度感染症流行予測調査中間報告(2011年8月現在速報)
(Vol. 32 p. 263-266: 2011年9月号)

はじめに
感染症流行予測調査事業は、1962年に伝染病流行予測調査事業(1999年度からは感染症流行予測調査事業)として始まった全国規模の血清疫学調査(感受性調査)および病原体保有状況調査(感染源調査)である。実施主体は厚生労働省健康局結核感染症課であり、都道府県、地方衛生研究所、国立感染症研究所がそれに協力している。

風疹の感受性調査は1971年に開始され、以後1984、1985、1998年度を除いて毎年調査が実施されている。抗体測定法は赤血球凝集抑制(hemagglutination inhibition: HI)法が用いられている。

本報告は、最新年度である2010年度調査のうち、2011年8月19日現在、風疹の感受性調査に協力があった15都府県(宮城県、山形県、栃木県、群馬県、千葉県、東京都、新潟県、長野県、愛知県、三重県、京都府、山口県、高知県、福岡県、沖縄県)から報告された結果について、速報として報告する。

なお、詳細は2011年度発行予定の平成22(2010)年度感染症流行予測調査報告書(厚生労働省健康局結核感染症課、国立感染症研究所感染症情報センター)を参照されたい。

年齢/年齢群別風疹HI抗体保有状況
2011年8月19日現在、15都府県で女性 2,977名、男性 2,514名、合計 5,491名の風疹HI抗体価が測定され、NESIDに報告があった。採血時期は概ね2010年7〜9月である

0〜5カ月齢は母親からの移行抗体と考えられるが、1:8以上のHI抗体保有率は61.5%、6〜11カ月齢が0%で最低となり、1歳ではワクチンの効果により66.3%に上昇し、2歳になると95.4%まで上昇した。定期接種(第1期)でMRワクチンが使用されるようになった効果と考えられた(図1)。

風疹の定期予防接種は、1977年に女子中学生を対象として始まり、1994年まで継続した(2010年現在28〜48歳の女性)。このため、この年齢群で男女差が大きく、女性は概ね95%前後の高い抗体保有率であったのに対して(図2)、男性は20代後半が89.5%、30代前半が72.6%、30代後半が79.2%、40代前半が77.0%、40代後半が82.0%であり、特に30〜40代の成人男性に感受性者の蓄積が認められた(図3)。

これに加えて1989年から麻疹の定期接種(生後12〜72カ月未満)の際に、麻疹おたふくかぜ風疹混合ワクチン(MMRワクチン)を選択しても良いことになったが、1993年にMMRワクチンの接種は中止となった(2010年現在18〜27歳の男女)。おたふくかぜワクチン株による無菌性髄膜炎の多発をうけて、この年齢群の予防接種率が下がっていたのではないかと心配されていたが、抗体保有率からみると、男女とも90〜95%前後の抗体保有率であった。

1995年度からは、男女中学生と生後12〜90カ月未満の男女の両方が定期接種の対象となり2005年度まで継続した(2010年現在17〜30歳の男女、6〜22歳半の男女)。しかし、集団接種から個別接種に変更となったため中学生男女の接種率が激減し、2003年9月30日までの時限措置として1979年4月2日〜1987年10月1日生まれの全員(2010年現在23〜31歳)について定期接種として接種が受けられることになった。

2006年度からは、1歳児(第1期)と小学校就学前1年間(第2期)を対象に麻しん風しん混合ワクチン(MRワクチン)による2回接種が始まった(2回の定期接種を受ける機会があった年齢は、2010年現在5〜10歳男女)。

また、2007年に発生した10〜20代を中心とする麻疹の流行により、2008〜2012年度の5年間の経過措置として、予防接種法に基づく定期接種に2回目接種として第3期(中学1年相当年齢の者)と第4期(高校3年相当年齢の者)が追加され(2010年現在12〜15歳男女、17〜20歳男女)、風疹対策の観点も考慮し、原則としてMRワクチンを用いることになったことが効を奏し、抗体保有率は高く維持されているが、第3期が始まった初年度に対象であった15歳と、まだ第3期の対象になっていなかった16歳の抗体保有率が80%台であり十分とはいえない。

年齢/年齢群別風疹HI抗体保有状況の年度別比較
「風疹流行および先天性風疹症候群の発生抑制に関する緊急提言(研究代表者:岡部信彦、研究分担者:平原史樹)」では、妊娠中の検査で風疹HI抗体価が1:16以下であった場合に、出産早期の風疹ワクチンの接種を勧めている。そこで、2003〜2010年度の調査について、1:8 以上と1:32以上の風疹HI抗体保有率を比較した(図4)。1歳で接種するワクチンが麻疹、風疹のそれぞれ単抗原ワクチンからMRワクチンに変更になった2006年度を境に、1歳児と2歳児の抗体保有率が著明に増加した。

3歳〜10代前半については、近年は90%以上の高い抗体保有率であり、2000年代前半の調査と比較すると全体的に抗体保有率は高くなっている。一方、10代後半以降の年齢層では、年度による大きな差は認められず、成人層には10%台の抗体陰性者が存在している。

幾何平均抗体価と予防接種回数別風疹抗体保有状況
2010年度の調査対象者5,491名中、553名(10.1%)の抗体陰性者を除いた風疹HI抗体陽性者(男性2,161名、女性2,777名)の幾何平均抗体価は、男性が26.3 (77.2)、女性が26.3 (80.2)であった。図5に、抗体陽性者の男女別・年齢/年齢群別幾何平均抗体価を示す。成人の方が小児より幾何平均抗体価は高かった。また、第2期(5〜6歳)、第3期(12〜13歳)、第4期(17〜18歳)の年齢群では2回目の接種による抗体価の上昇が見られた。

次に、予防接種回数別に、2回以上接種群、1回接種群、未接種群に分けると、それぞれの幾何平均抗体価は26.0 (65.2)、26.1 (68.3)、26.6 (95.4)であり、未接種群(罹患群と考えられる)が最も高く、2回以上接種群と1回接種群で差は見られなかった。

図6には風疹含有ワクチン1回接種者の風疹抗体保有状況を示した。primary vaccine failure(PVF)と考えられる抗体陰性者(1:8未満)が4.9%存在し、接種後年数の経過とともに抗体が減衰、あるいは最初から抗体獲得が不十分であったと考えられる1:8、1:16の低い抗体価の者を加えると、全体で17.7%存在した。1歳、7歳、13歳、19歳で抗体価が高い傾向が見られるが、これらの年齢はそれぞれ第1、2、3、4期に概ね相当する年齢であり、接種後早期の抗体価であるためと考えられた。

図7には、風疹含有ワクチン未接種者の抗体保有状況を示した。小児は未接種者が少なかったため、ワクチン未接種の成人410名について集計した。近年の風疹の流行状況では、ワクチン未接種にかかわらず、20〜40代前半には10〜20%の風疹抗体陰性者が存在し、40代後半〜60代にも5〜10%の抗体陰性者が存在し、発症前に予防接種を受けておくことが勧められる。

まとめ
2010年度調査で明らかになった結果は、MRワクチン導入と、第1期〜第4期の定期接種による抗体保有率の上昇である。MRワクチンの導入は、麻疹のみならず風疹対策にも大きな効果が認められた。

本調査は感受性者の蓄積年齢を把握し、その年齢層への対策を強化する目的に有用であることに加えて、ワクチンの効果を見る意味においても極めて重要であり、継続して実施すべき重要なサーベイランスと考える。

本事業は、厚生労働省健康局結核感染症課、担当都道府県・都道府県衛生研究所・保健所・医療機関、国立感染症研究所が協力して実施している事業であるが、毎年、採血と予防接種歴・罹患歴の聴取ならびに風疹HI抗体価の測定を担当されている都道府県ならびに都道府県衛生研究所の尽力が極めて大きい。

国立感染症研究所感染症情報センター
多屋馨子 佐藤 弘 新井 智 北本理恵 岡部信彦
同 ウイルス第三部 森 嘉生 竹田 誠
2010年度感染症流行予測調査事業風疹感受性調査担当:
宮城県、山形県、栃木県、群馬県、千葉県、東京都、新潟県、長野県、愛知県、三重県、
京都府、山口県、高知県、福岡県、沖縄県および各都府県衛生研究所

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