妊婦感染の相談窓口の存在と現状
(Vol. 32 p. 266-267: 2011年9月号)

妊婦における各種感染症の罹患は、母子感染の可能性、妊婦自身の重症化、流早産のリスクなどの問題があり、非妊婦と異なり特殊である。感染症の潜伏期間や感染期間、診断方法、起こりうる母体・胎児リスクの種類や頻度は千差万別であり、正しい評価と対応が求められる。しかし普段から妊婦の診療にあたっている産婦人科医の多くは感染症の専門家ではなく、また感染症に精通している内科や皮膚科、小児科の医師らは母体胎児管理に慣れていない。2004年に厚生労働省(厚労省)研究班から「風疹流行および先天性風疹症候群の発生抑制に関する緊急提言」が発せられた際、妊婦の相談窓口を設置したので、その概要と現状について報告する。

1.2004年発の緊急提言
2003〜2004年にかけて発生した風疹小流行の際、年間1〜2例にとどまっていた先天性風疹症候群(congenital rubella syndrome : CRS)が年間10例と激増し、ただちに厚労省研究班が発足し、CRS発生抑制に関する実効的な対策について検討され、「風疹流行および先天性風疹症候群の発生抑制に関する緊急提言」が発せられた(http://idsc.nih.go.jp/disease/rubella/rec200408rev3.pdf)。提言の内容は、I.風疹予防接種の勧奨、II.風疹罹患(疑いを含む)妊娠女性への対応、III.流行地域における疫学調査の強化、の3項目からなり、IIでは、低抗体価の女性に対する注意を喚起するとともにCRSハイリスク例の見落としを避け、またCRSリスクの正しい評価および無用な人工妊娠中絶の防止を目的とし、妊娠女性への診療対応の概略フロー図(図1図2)を示し、風疹罹患(疑い含む)妊婦については各地区ブロックごとの相談窓口(2次施設:表1)との間で報告用紙等を用いて正確かつ適切な情報の交換をおこない、2次施設から予測されるCRSリスクの情報等を返信、主治医よりケースに即したリスク説明をおこなう手順を示した。

2.2次施設への相談の現状
2004〜2010年度の間に、2次施設からの妊婦症例登録が合計200例あり、2010年度の登録数は13例であった。症例数の減少は実際の風疹流行の抑制を反映しているのみではなく、問題意識の減弱や、相談窓口の存在が周知されていないこと、担当者の変更などにより2次施設そのものが十分に機能していないことの影響が考えられる。2次施設および担当者の再確認と整備が必要である。

2010年のCRSの報告例は小児科からの連絡であった。登録症例については出生後の追跡調査をあわせておこなうことになっているが、未実施例が毎年増加している。登録調査期間中に明らかな風疹流行は報告されなかった。母体に発疹を認めた症例が増加傾向であるが、いずれも患者との接触はなかった。また、風疹ワクチン接種なし、不明という症例が76%を占めた。明らかな風疹罹患例が2次施設に紹介されていない可能性がある(他科受診、外国人妊婦症例など)。風疹罹患や患者との接触、周囲の流行のない、血清学的所見のみの報告例ではCRS例はなかった。

産婦人科診療ガイドライン産科編では2008年版創刊号から、妊婦の風疹罹患に関する項目があり、上記提言と2次施設相談窓口の存在について記述がなされているものの、2次施設として相談事例を受ける施設には偏りがあり、認知度は高くないと推察され、知っていても相談に至らないケースも存在すると考えられる。今後も周知と啓発につとめる必要がある。

3.妊婦の感染症全般に関する相談窓口の必要性
2004年に設置した2次相談窓口は風疹への対応を目的としたものであったが、前述のごとく、感染症に明るくない現場の産婦人科医師が、種々の感染症罹患妊婦に接して右往左往している現状がある。ざっと挙げるだけでも風疹、麻疹、水痘、HTLV-I、HIV、パルボウイルスB19、サイトメガロウイルス、トキソプラズマ、梅毒、等々、疾患も対応もさまざまである。現在は各担当医が文献やガイドラインを調べてその場で対応し、疾患によっては一部の専門家が相談を受けて症例を集め個々に検討をおこなっている。従って、こうした妊婦感染症全般の総合的な相談窓口・症例登録システムの存在はきわめて有用であると考えられる。

横浜市立大学附属市民総合医療センター総合周産期母子医療センター
奥田美加 高橋恒男
横浜市立大学大学院医学研究科生殖生育病態医学
平原史樹

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