2011(平成23)年5月に麻疹疑いと診断された2人の患者から風疹ウイルス(1Eならびに2B型)が検出された。
患者(1) :33歳男性、2011(平成23)年4月25日に発病、27日に医療機関に受診し、4月27日に検体を採取した。発熱、発疹、コプリック斑ならびに結膜充血の症状を呈しており、医師から麻疹疑いと診断された。ワクチン接種歴は不明。海外渡航歴は無し。
患者(2) :43歳男性、2011(平成23)年4月27日に発病、29日に医療機関に受診し、5月2日に検体を採取した。発熱、発疹ならびに結膜充血の症状を呈しており、医師から麻疹疑いと診断された。ワクチン接種歴は不明。海外渡航歴は無し。
患者(1) から採取された尿、血清ならびに末梢血単核球、患者(2) から採取された咽頭ぬぐい液について麻疹ウイルスのMPならびにNA領域に対するRT-nested PCR検査を行ったところ、すべての検体において麻疹ウイルスの遺伝子は検出されなかった。そこで、風疹ウイルスについて、国立感染症研究所の病原体検出マニュアルに記載されたE1領域に対する特異的なプライマー(E1P5、E1P6、E1P7ならびにE1P8)を用いてRT-nested PCRを行った1) 。その結果、患者(1) の尿ならびに血清、患者(2) の咽頭ぬぐい液から風疹ウイルス遺伝子が検出された。さらに、これらの検体についてDNAダイレクトシークエンスを行い、遺伝子配列を解析後、国立遺伝学研究所のBLAST 検索を行ったところ、患者(1) は2008年ごろに北米地域で流行したインド由来と見られる株、患者(2) は2007年ごろに中国地域で流行した株と相同性を示した。また、風疹ウイルスのE1領域のpartial sequence(244bp)における系統樹解析を行ったところ、患者(1) (RVi_Kawasaki.JPN_11_M6)については2B型に分類され、患者(2) (RVi_Kawasaki.JPN_11_M9)については1E型に分類された(図1)。これらの結果より、今回の二人の患者から検出された風疹ウイルスは、過去に東南アジアで流行していた株が何らかの理由で日本に持ち込まれて感染を引き起こした可能性が考えられる。また、今回の事例により、発疹症状を伴う麻疹疑いと診断される患者において風疹ウイルスが検出される可能性があることが示唆された。
2011年度では、茨城県においても麻疹疑いの患者から風疹ウイルスの遺伝子が検出される事例が報告されている2) 。一方、本市では、麻疹疑いの患者からパルボウイルスB19 が検出された事例もあることから、発疹症状を呈している患者において麻疹ウイルスが検出されなかった事例は、加えてヒトヘルペスウイルス6、7 型、風疹ウイルスならびにパルボウイルスB19 の遺伝子検査を行う必要があると考えられる。
参考文献
1) 「病原体検出マニュアル」、 国立感染症研究所・地方衛生研究所全国協議会編
2) IASR 32: 170-171, 2011
川崎市衛生研究所
松島勇紀 中島閲子 加納敦子 石丸陽子 清水英明