2010年の大阪府内の風疹報告数は10例であったが、2011年第1〜28週に府内で確認された風疹症例は54例で、昨年より大きく増加した。以下に大阪府内の風疹患者発生状況について報告する。
患者発生状況
患者の発生は第5週からみられ始め、第14週までは1週間に1〜3人の発生で推移したが、第16週以降5〜8人と患者数が増加した(図1)。臨床診断によって報告された事例は12例であった。検査診断(コマーシャルラボ)または実験室診断(衛生研究所)によって確定された事例は42例で、そのなかではIgM抗体の検出が最も多く25例(60%)を占めた。地方衛生研究所では、公衆衛生学的見地に基づいて、感染症の早期探知と感染拡大阻止を目的として、原因ウイルスの検索を行っている。そのため、上記の54症例には、大阪府内で風疹の発生届が出された症例と、麻疹が疑われたが大阪府立公衆衛生研究所と堺市衛生研究所での実験室診断の結果、風疹検査が陽性となった症例も含んでいる。
現在確認されている54例において、患者の性別は男性40例(74%)、女性12例(22%)、不明2例(3.7%)で、患者年齢の中央値は男性32歳(範囲1〜57歳)、女性27歳(範囲1〜52歳)であった。患者数は20代で最も多く(35%)、次いで30代(30%)、40代(17%)の順であったが(図2)、いずれの年齢層でも男性の患者が多くみられた。また、地域別の患者発生数をみると、大阪市が最も多く13例(24%)、次いで堺市および中河内ブロック(大阪府東部)でそれぞれ11例(20%)であり、患者発生数には地域的な偏りがみられた。風疹ワクチン接種歴の記載が確認できた40例のうち、ワクチン歴有り(1回)3例、無し6例、不明31例で、ほとんどの事例がワクチン接種歴について詳細な情報が得られなかった。職場や家庭内などで発疹性疾患の患者との接触歴があったものは13例であった。3例の患者では罹患したと思われる時期に海外渡航歴があり、渡航先はそれぞれ中国および東南アジア(ベトナム、タイ)であった。
実験室診断確定例
大阪府立公衆衛生研究所および堺市衛生研究所では、麻疹疑いで麻疹が否定された82症例の中で、23症例について風疹ウイルス感染を確認した(表)。このうち、麻疹疑い時の症状が詳細に把握できたものは18例[男女比17:1、年齢中央値36.5歳(範囲15〜52歳)]であった。発熱は15例、咳・鼻汁等の上気道炎症状は7例、結膜充血は13例、発疹18例、コプリック斑は6例で報告があった。13例が麻疹の臨床診断基準(発熱・発疹・カタル症状)を満たしており、7例がカタル症状のうち、結膜充血しか見られなかった。以上のことから、実験室診断で確定した風疹には、麻疹の臨床症状を示す症例が多く含まれており、臨床症状からは麻疹と風疹との鑑別は難しいと思われた。
風疹ウイルスの実験室診断として、血液、咽頭ぬぐい液、尿から抽出したRNAを用いた風疹ウイルスのNSP領域またはE1蛋白質領域を対象としたnested PCR、および血漿(血清)を用いた風疹IgMELISAを行った。風疹感染が確認された23例のうち、7例はPCR陽性、9例がPCRおよびIgM陽性、7例がIgMのみ陽性であった。PCR陽性IgM抗体陰性の2例(症例13, 20)はそれぞれ発症後1日および3日後に検体採取が行われており、IgM抗体の上昇が十分にみられない時期であったと考えられた。一方、IgM抗体のみ陽性だった7例(症例1, 2, 7, 12, 15, 16, 22 )は発症後3〜9日(中央値6日)に検体採取された症例で、検体採取時期が著しく不適切であったとは思えないが、ウイルスゲノムは検出されなかった。PCR陽性となった16例は発症後14日以内(中央値 1.5日、範囲0〜14日)に検体採取されており、比較的発症後早期に検体採取が行われたものが多かった。今回の解析では、ウイルスゲノム検出とIgM抗体産生の時間的関係が直線的でないことを示しており、今後は、検出方法の改良も含めて、データの蓄積が必要となってくると思われる。
ウイルスゲノムは咽頭ぬぐい液からの検出率が最も高く(88%)、次いで尿(50%)、血液(31%)の順であった。それぞれの症例の検体採取時期にも影響を受けるものの、明瞭な臨床症状を呈している時期の患者では鼻咽頭でのウイルスの排泄量が最も多い可能性が考えられた。また、風疹の病因検索では、咽頭ぬぐい液が最も重要となるのかもしれない。
PCR陽性であった検体のうち、ウイルスの遺伝子型が決定できたのは3例(症例3, 17, 20)で、いずれも遺伝子型2Bであった。遺伝子型2Bウイルスは、本来は南〜東南アジアを中心に全世界で流行しているウイルスであり、昨年までは日本での報告は輸入例を除いてなかったことから、ウイルスの起源は海外に由来していると思われる。しかしながら、大阪では2〜5月にかけて同じ遺伝子型のウイルスが検出されたことから、このウイルスが定着した可能性も考えられる。
今後の取り組み
麻疹排除にむけた近年の取り組みに加えて、関東地方でみられた麻疹の流行を受けて、行政や医療機関、教育現場での麻疹に対する意識は非常に高くなっているが、風疹への認識が薄れている感は払拭されない。
風疹は、臨床症状から麻疹との類症鑑別が難しく、不顕性感染や典型的な症状をみない症例も多いため、麻疹を疑った際は、風疹も念頭におき医療機関でのIgM検査の実施が今後重要になると考えられる。
また、風疹は30〜50代の男性のワクチン接種率および抗体保有率が低いことが知られており1) 、大阪府内では免疫がない男性を中心に地域流行が起こったと考えられる。今後は先天性風疹症候群2) の発生が懸念されることから、風疹患者数の正確な把握を行うと同時に、妊娠可能な年齢層の女性への感染の拡大を充分監視していかなければならない。また、配偶者が妊娠する可能性も高い、風疹に免疫のない青壮年男性には予防接種も必要と考えられる。
参考文献
1) IDWR 17・18: 15-19, 2011
2) IDWR 21: 8-10, 2002
大阪府立公衆衛生研究所
倉田貴子 井澤恭子 西村公志 加瀬哲男 高橋和郎
大阪府健康医療部地域保健感染症課
大平文人 松井陽子 梯 和代 熊井優子
大阪市立環境科学研究所
久保英幸 改田 厚 後藤 薫 長谷 篤
堺市衛生研究所
内野清子 三好龍也 田中智之
国立感染症研究所
森 嘉生 大槻紀之 坂田真史 駒瀬勝啓 竹田 誠