HIV検査法について
(Vol. 32 p. 285-287: 2011年10月号)

ヒト免疫不全ウイルス(HIV; human immunodeficiency virus)は人類がこれまで遭遇した最も多様性を示す病原体であり、分離されてから30年になろうとしているが、その感染は拡大し、国内でも感染者数は増加している。HIV感染症では通常感染してから数カ月後に血液中にHIV抗体が出現する。感染を早期に発見し、適切な治療を開始することが、流行の拡大を防ぐために重要である。感染を確実に診断できるように体外診断薬も改善され、その感度・正確性も格段に向上してきた。

検査は通常スクリーニング検査と確認検査の2段階で行われる。現在国内で認可、販売されているHIV体外診断薬を用途別にに示した。

スクリーニング検査用の診断薬は大きく4種類に分けられる。ほとんどのHIV-1/2抗体検出診断薬では、多様なHIV-1/2で比較的抗原決定基が保存されている膜貫通部位(HIV-1 gp41, HIV-2 gp36)の組換え蛋白あるいは合成ペプチドを抗原に用いてHIV-1およびHIV-2に対する抗体を検出している。

まず迅速・簡便検出系としてイムノクロマト法によるHIV-1/2抗体検出系のダイナスクリーン・HIV1/2があり、保健所・クリニック等においてその簡便性から最も用いられている。2010年末より抗HIV-1/2抗体に加えてHIV-1 p24 gag抗原を検出する抗原・抗体同時検出法のエスプラインHIV Ag/Abが使用可能となった。

第3世代抗体検出系として複数の体外診断薬があり、抗HIV-1/2抗体を迅速・簡便検出系より高感度で検出するが、その多くは高価な専用自動免疫測定機器が必要である。用手法で使えるジェネディアHIV-1/2ミックスPAは、その簡便さと抗体価が得られることから現在でも頻用されている。

周知のように、HIV感染症では感染してから抗体が産生されるまでに、第3世代抗体検出系などでは感染を診断できないウインドウ期がある。このウインドウ期を短縮するため、抗体出現の前に増殖したウイルス抗原(HIV-1 p24 gag)を抗体と同時に検出する第4世代抗原・抗体同時検出系が2000年頃から開発され、現在では抗原検出感度をより高めた改良型第4世代体外診断薬が複数認可、市販されている。感染診断のスクリーニング検査においては急性感染期の検出漏れがないよう、この第4世代抗原・抗体同時検出系が推奨されている。しかしながら、その多くは化学発光測定と組み合わせて高感度に検出するため高価な専用自動免疫測定機器が必要となるので、その利用は診断会社や拠点病院などに限られる。この観点からEIA原理で用手法でもできるジェンスクリーンHIV Ag-Ab ULTはELISAリーダーなど汎用機器があれば使用でき、感度・正確性も劣ってはいないが、他の自動免疫測定機器専用診断薬より判定に時間がかかる。第4世代抗原・抗体同時検出系を用いての陽性結果は、抗原か抗体かいずれが陽性か区別がつかないことに注意すべきである。

抗原検出系の診断薬は、HIV感染症の病態推移において抗原が検出できる時期が限られることから現在では診断検査に用いられていないが、第4世代抗原・抗体同時検出系を用いて陽性結果が出た場合に、第3世代抗体検出系とともに用いて、抗原か抗体かいずれかが陽性か区別するためと、ウイルス分離による判定に専ら用いられている。

HIV感染診断薬に限らず、診断薬は高い感度と正確性が求められるが、感度と正確性は相互に二律背反な因子である。

スクリーニング検査用のHIV感染診断薬は、その目的から感染検体を漏らさず検出することが求められる。このことは偽陽性が避けられないこと(試薬により0.3〜1%程度)を念頭に置く必要がある。特に妊娠という免疫学的には非自己の胎児を抱える妊産婦のケースではHIV感染診断薬に限らず偽陽性が生じる。この比較的多い偽陽性検体を除外するためには、確認検査の前に最初のスクリーニング検査と同等以上の感度を持つ別の診断薬で追加検査を実施することが有効である。

確認検査は、その目的から感度よりも正確性が求められる。現在、抗体検出によるHIV-1/2鑑別系とHIV-1ウイルス遺伝子定量の核酸増幅定量測定系がある。しかしながらHIV-1/2鑑別系のウェスタンブロット(WB)法とラインブロット法は、スクリーニング検査用診断薬より感度が数段劣る。またWB法ではHIV-1とHIV-2との間にウイルス構成蛋白抗原(p24 gag, pol関連抗原など)に少なからず交差反応が認められる場合があることが知られている。これらの要因によりWB法の結果の解釈には経験が必要とされる。従来、第3世代抗体検出系でスクリーニングした陽性検体は抗体検出系のHIV-1とHIV-2のWB法で確認していたが、第4世代抗原・抗体同時検出系でスクリーニングした陽性検体は、急性感染期など十分な抗体がない場合、抗体検出系で感度が劣るWB法では陰性か判定保留となる。それゆえ第3世代抗体検出系のジェネディアHIV-1/2ミックスPAで抗体価が低い場合、あるいは第3世代抗体検出系および第4世代抗原・抗体同時検出系でカットオフ・インデックス(COI)値が低い場合は、十分な特異抗体がない場合が多いので、感度に劣るWB法では陰性か判定保留となる可能性が高いことを考慮すべきである。また、現在の第4世代抗原・抗体同時検出系での抗原検出感度はp24 gag抗原が約10pg/ml付近でCOI値が1以上で陽性になる。これは多くのseroconversionパネルでの急性感染期で抗原のみ陽性のフェーズでは105copy/ml以上のコピー数がないと抗原検出が陽性とならないことを示す。このことからスクリーニング検査での抗体価あるいはCOI値はWB法での陰性と判定保留における解釈の参考になる。このようなケースでは後日抗体が十分産生されてから再検査か、次の高感度な核酸増幅定量測定系を用いる。今後HIV-1/2の血清学的確認検査で、WB法に関する解釈の煩雑さを低減するような新たな試薬の導入が望まれる。いずれにせよ感染診断に用いている試薬の特性を把握することが重要であり、操作は煩雑になるが、ウイルス分離が後々のウイルスの特性解析には望まれる。

核酸増幅定量測定系はHIV-1では現在3種類が市販されているが、HIV-2ではまだない。HIV-1ではそれぞれ標的遺伝子領域が異なる。核酸増幅定量測定系は急性感染期と感染母体からの新生児の感染診断に必須であるが、現在では検体量が比較的多く必要とされ、何より高価なウイルスRNAゲノム自動分離機器と自動測定機器が必要となるので、その利用は診断会社や拠点病院などに限られる。そのため、今年度改訂の国立感染症研究所「病原体検出マニュアル」にはHIV検査体制研究班(厚生労働省エイズ対策事業)で開発した汎用リアルタイムPCR装置を用いたHIV-1 RNA定量法であるKK-TaqMan法が記載される予定である。これらHIV-1核酸増幅定量測定系は血清診断系に比べ高感度であることから偽陽性が生じ易いことに注意し、この検出系でのみ陽性である検体は、後日、改めて血清確定診断系で確認することが必要である。

現在入手できるHIV診断薬の特性を中心にHIV検査を簡単に概説したが、紙面の都合で詳細には紹介できなかったので、HIV-1/HIV-2感染あるいはHIV-1/2混合感染など、判断の難しい場合には、著者にご連絡いただきたい。

国立感染症研究所エイズ研究センター 巽 正志  tatsu☆nih.go.jp (*「☆」記号を「@」に置き換えてください)

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