感染初期のウインドウ期の献血を防止するために、問診票でHIV検査目的の献血と感染症リスク行動についての質問を設けている。2011年4月から問診票を改訂し、責任ある献血を強く促すとともに、感染症リスク行動の設問について、期間を従来の1年以内から6カ月以内に短縮し、リスクのある性的接触の対象に「新たな異性との性的接触」を加え、以下のように変更した。
6カ月以内に次のいずれかに該当することがありましたか。 (1)不特定の異性または新たな異性との性的接触があった。 (2)男性どうしの性的接触があった。 (3)麻薬、覚せい剤を使用した。 (4)エイズ検査(HIV検査)の結果が陽性だった(6カ月以前も含む)。 (5)上記(1)〜(4)に該当する人と性的接触をもった。 |
HIV陽性献血者数の推移
国内のHIV感染者数の増加を背景に、HIV陽性献血者数は2007年に102件(献血者10万人当たり2.07)と100件を超え、2008年107件(同2.11)と増加したが、2009年102件(同1.93)、2010年86件(同1.62)と、再び減少した。男女別では、この5年間で男性が96%を占めている(図1)。
都道府県別では、東京、大阪が他と比べ群を抜いており、その頻度は、東京が10万人当たり3〜4人台で推移しているのに対し、大阪は2004年以降東京を上回っており、特に2007年、2008年はそれぞれ6.92、6.70と著しく高かった(図2)。その一方で、陽性献血者の献血地は、2006年の24都道府県から2007年27、2008年30、2009年には33都道府県にわたっており、全国的に拡散傾向となっている(図3)。この5年間で陽性献血者が認められなかった県は福井、山梨、佐賀、大分の4県のみであった。年齢群別では、10〜30代の若い世代が80%前後を占めている(図4)。初回献血者の陽性者数は毎年30人前後であり、10万人当たりの陽性者数は5〜6人と、全献血者と比べ高い頻度であり、特に男性では2010年は1万人に1人の割合と、著しく高くなっている(図5)。
2010年のHIV陽性血液86件のHIV-1サブタイプは77件(90%)がBであり、その他、組換え流行株のCRF01_AE 6件、CRF01_ AE/B 1件、CRF11_ cpx 1件およびNAT陰性1件であった。
HIV輸血感染事例
輸血によるHIV感染が確認されているのは1997年1例、1999年2例、2003年1例の合計4例であり、NAT導入以降は2003年の50本プールNAT陰性(個別NAT陽性)の1例のみである。2004年の20本プールNAT実施以降、輸血感染事例は起きていない。
HIV陽性献血者への対応
HIV陽性者への対応について考慮すべき点は二つあり、一つは受血者の安全性、もう一つは献血者の健康管理である。前者については、陽性者へ通知した場合、感染初期の検査目的の献血者を惹き付けるマグネット効果で、ウインドウ期の献血によるリスクの増大に繋がる可能性があることから、「検査目的の献血」を防止する必要がある。後者については、陽性者に対し、受診勧奨、早期治療、二次感染防止などの留意点を伝え、心理的ケアを含めた告知するための配慮が必要である。
現在、日本赤十字社では、HIV陽性献血者に対しHBV、HCVのような陽性者への通知は行っていないが、感染拡大の防止、感染者の早期治療を促すために必要な措置を講じている。
最後に
2011年4月から問診票を改訂し、責任ある献血を強く促すとともに、HIVを想定した感染症リスク行動の設問をより具体的なものに変更した。しかし、2010年に「検査目的の献血」の設問に「はい」と回答し、献血をお断りした事例が337件あり、頻度でみると10〜20代に多く見られた。
今後も引き続き、スクリーニング検査の向上により献血血液の安全性確保に努めるとともに、献血者には「責任ある献血」が強く望まれる。また、保健所等には高い利便性と迅速検査を主体とした検査体制のさらなる充実を強くお願いしたい。
参考文献
1)加藤真吾、厚生労働科学研究費補助金エイズ対策研究事業、HIV検査相談体制の充実と活用に関する研究、平成22年度研究報告書、平成23年3月
2)百瀬俊也、血液事業 34: 69-71,2011
3)厚生労働省医薬食品局血液対策課、平成22年版血液事業報告
日本赤十字社血液事業本部安全管理課 百瀬俊也