菓子製造施設における腸管出血性大腸菌食中毒事例の発生−山形県
(Vol. 32 p. 296-297: 2011年10月号)

2011(平成23)年5月、山形市内の菓子製造業施設において、団子、柏餅を原因食品とする腸管出血性大腸菌O157(以下「O157」という)食中毒という、極めてまれな事例が発生したので、その概要を報告する。

1.概要
5月7日、市内の医療機関から特定の地区の住民数名が食中毒様症状を訴え、受診しているとの届出を受けた。患者への聞き取りから、5月3日に開催された地区の祭事で、当該施設が製造した団子を喫食していることが判明した。

調査の結果、患者は当該施設で5月3〜7日にかけて製造した団子および2〜5日にかけて製造した柏餅を喫食した 287名[原因食品を団体で購入した4グループおよび製造所や卸先(小売店等)から個別に購入した客]で、うち1名が死亡した。症状は下痢や腹痛等で、溶血性尿毒症症候群(HUS)を発症したのは6名であった。患者147名からO157を検出し、分離菌株45件(従事者由来の1件を含む)についてパルスフィールド・ゲル電気泳動を行ったところ、DNAパターンはすべて一致した。

なお、原因食品を団体で購入したグループの1つについて、国立感染症研究所と合同で症例対象研究を実施した結果、当該施設で製造した団子に起因する可能性が極めて高いことが示され、その他に要因となるものは無かった。

2.汚染経路の検討
当該施設では、団子、柏餅の他にも製造を行っており、それぞれの製造工程は図1のとおりであった。しかし、大福およびゆべし喫食者からは患者の発生が見られなかった。

団子の餡の種類は4種類であったが、団子の種類別における患者の発生に偏りが無かったことから、特定の餡による汚染を否定した。また、生地の原材料由来の汚染の可能性については、製造工程中に十分な加熱殺菌工程があること、同じ原材料を使用している他の製造施設から患者が発生していないことから否定した。

団子、柏餅はそれぞれ別の成型機を使用するが、それ以前の生地の製造工程は全く同一であり、加熱殺菌後の工程で生地が汚染されたものと考えられた。

従事者BからO157が検出されたが、この従事者は無症状病原体保有者であり、感染時期が不明であったこと、製品の味見を行っており、汚染された食品の喫食により感染した可能性を否定できないことから、この従事者が汚染源となったか否かは不明であった。また、手指からの汚染の可能性の有無については、複数回の聞き取り調査において営業者の説明内容が変わり、正確な作業内容は不明であったことから判断できなかった。しかし、特定の食品のみ5日間にわたって汚染され続けたことから、毎日人の手を介して直接生地が汚染されたのではなく、製造工程内の固定された汚染源により継続的に汚染されたものと考えられた。

団子および柏餅の生地を冷却する冷却桶については、日々の作業終了後も十分な洗浄や殺菌が行われておらず、汚染が継続しうる状態であったが、冷却桶に残っていた水を採取し検査を行ったところ、O157は検出されなかった。餅つき機を生地冷却後に使用することについては、熱い状態の生地を入れて使用する工程もあることから、餅つき機に付着した汚染が複数日にわたって食品を汚染することは考えにくかったが、冷却桶が汚染されていたとすれば、その汚染を生地全体に拡げる可能性があることから、汚染経路の追及には重要であると考えられた。その他、製造所内の各所および調理器具や容器包装等についてふきとり検査を行ったがO157は陰性であった。

汚染が外部から持ち込まれた可能性について、当該施設は、屋外との区画に破損個所が見られるだけでなく、製造所内は鼠族昆虫対策が行われておらず、蟻やゴキブリが発生していたほか、鼠の侵入も見られることがあるとのことであり、外部からの汚染が持ち込まれやすい状況であった。

以上のことから、汚染経路について種々の可能性が考えられたが、特定には至らなかった。

3.まとめ
本事例は、菓子類が原因食品と疑われた、O157事例としては極めてまれな事例である。しかし、少ない菌量で感染が成立するという菌自体の特性や、加熱後に複雑な加工工程を経る団子および柏餅の製造上の特性、さらに衛生状態の良くない施設という複合的な要因が重なり発生したものと考えられた。

汚染経路について、種々の検討を行ったが、特定には至らなかった。その要因としては、複数回の聞き取り調査において営業者の説明内容が変わり、実際の作業内容が明確でなかったこと、ふきとり検査等の結果から病因物質が検出されなかったこと、施設の衛生状態の悪さ等から多くの汚染経路が推定され、それらの否定材料がなかったこと等が考えられた。

今後は、無症状病原体保有者の把握および手指を介した二次汚染の予防という観点から、講習会等の機会を設け、手洗いの重要性や定期的な検便の意義について、一層の注意喚起に努める必要があると感じた。

最後に、本事例の調査に御協力いただいた他県担当者の皆様、そして国立感染症研究所疫学調査グループの皆様に深謝いたします。

山形県村山保健所
結城克行 熊谷昭彦 齊藤寿子 赤塚 淳 石澤秀悦 堀 優 高橋 眞

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