MRワクチン接種後、約4カ月を経て麻疹ワクチン株遺伝子が検出された症例―千葉県
(Vol. 32 p. 299-300: 2011年10月号)

症例は1歳7カ月男児で、2011年6月10日に咳が出現し、11日夜、38.5℃の発熱、耳、首に発疹が出現し、夜間救急診療所を受診し、コプリック斑が確認された。翌12日も発熱は持続し、かかりつけの医院を受診した。かかりつけ医において体幹から足および膝に広がる麻疹様発疹を認めたため、溶連菌感染症および麻疹を疑われたが、溶連菌検査キットで陰性のため、麻疹臨床診断例として保健所に届けられた。13日に発熱は40.0℃となった。14日には微熱となり、発疹は少しずつ消失した。17日、平熱、発疹は消失した。症例には免疫不全状態はなく、突発性発疹は満1歳の時点で罹患済みであり、正常経過であった。この男児は麻疹風疹混合ワクチン(MRワクチン:麻疹ワクチンはTanabe株)の接種を2011年1月24日に受けており、家族および男児が通所している保育所において、発症前の1カ月間に麻疹患者および麻疹ワクチン被接種者はいなかった。

6月12日採取の血液、咽頭ぬぐい液、尿について、麻疹ウイルスH遺伝子、N遺伝子に対するRT-PCRを実施したところ、咽頭ぬぐい液からのみH遺伝子、N遺伝子がともに検出された。N遺伝子486bpについて塩基配列を解析した結果、感染研分与の陽性コントロールAIK-C株とは異なり、接種を受けたMRワクチンに含まれるTanabe株と100%一致した。

麻疹IgM抗体は、6月12日、20日、7月4日のいずれも陰性であり、麻疹IgG抗体は、6月12日50.45 EIA価、20日53.33 EIA価、7月4日53.64 EIA価で、抗体価の変動はみられず、PA法による麻疹抗体価も変動はみられなかった。さらに、EBV、HSVの抗体検査において感染を示唆する結果は認められなかった。

また、急性期の6月12日の検体について、風疹ウイルス、パルボウイルスB19、ヒトヘルペスウイルス(HHV)6、HHV7、エンテロウイルス属、ライノウイルスについてPCRを実施したところ、咽頭ぬぐい液からHHV6およびライノウイルスの遺伝子を検出した。

さらに、麻疹ウイルスの感染が継続している可能性を疑い、7月4日に採取した血液、咽頭ぬぐい液を検査したが、麻疹ウイルス遺伝子は検出されなかった。検査結果の詳細については、表1に示した。

症例は、臨床症状から麻疹が強く疑われ、咽頭ぬぐい液から接種ワクチン株遺伝子が検出された。しかしながら麻疹抗体価は、発症時から約6週の間に3回得た血清において、すべてIgM抗体陰性、IgG抗体陽性であり、抗体価の変動も見られていない。また、HHV6、ライノウイルス遺伝子の検出およびEBV、HSVの抗体検査の結果も、今回の症状を直接説明できる結果ではないと考えた。

今回検出された麻疹ワクチン株遺伝子が患者の症状に関連するものなのか、何らかの要因とともに検出されてきたものなのかを明瞭にすることはできなかったが、抗体価の変動もなく、麻疹ウイルスに対する免疫応答はなかったといえる。また遺伝子の検出は一過性であり、ウイルス分離も陰性であったところから、持続感染や、他への感染の可能性等は否定できると考えられる。今後も、この症例の発疹出現時等にウイルスの検出を試みることは重要であろう。

なお今回、接種後約4カ月を経た麻疹様の発疹患者から、過去に接種を受けた麻疹ワクチン株と同一の遺伝子が検出されたが、麻疹ワクチン接種後の健常無症状者からのワクチンウイルス株遺伝子は、接種後2カ月以内までの末梢リンパ球から検出されたことが報告されている(Sonoda S, Nakayama T, J Med Virol 65: 381-387, 2001)。

千葉県衛生研究所 小川知子 堀田千恵美 小倉 惇 福嶋得忍
ひらの内科 平野憲朗
千葉県印旛健康福祉センター 小山早苗
国立感染症研究所ウイルス第三部 駒瀬勝啓
北里大学生命科学研究所 中山哲夫
北里大塚バイオメディカルアッセイ研究所 和山行正

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