結膜炎患者からのヒトアデノウイルス56型の分離―岡山県
(Vol. 32 p. 293-294: 2011年10月号)

2011年2月および3月、岡山県岡山市において流行性角結膜炎と診断された患者2名(30歳男性および50歳女性)からヒトアデノウイルス56型(HAdV-56)を分離したのでその概要を報告する。

患者2名の症状はともに結膜炎のみであった。両者の結膜ぬぐい液から、FL細胞を用いてウイルスを分離した。CPEは盲継代(7日ごとに継代)2代目の最終日に確認された。3代まで継代したウイルス上清を用い、HAdV-1〜8、11、19および37の抗血清を用いて中和試験を行ったところ、すべて反応しなかった。そこで、血清型特異的とされるヘキソン超可変領域(HVR)(使用プライマー:S29/S52、S51/S53)1) 1,243塩基の遺伝子配列をダイレクトシークエンス法で決定し、BLAST検索を行った。その結果、2株ともHAdV-56(Accession No. HM770721)と遺伝子配列が100%一致したため、HAdV-56と判定した。HVRにおける本分離株と既知株の分子系統樹を図1に示した。

HAdV-56は、フランスの患者から分離され、2011年Robinsonらによって新たに提唱された新型HAdVである2) 。日本ではKanekoらによって2008〜2009年にかけて新型リコンビナント株HAdV-15/29/H9による流行性角結膜炎が11例(北海道、福島県、神奈川県、岐阜県、愛媛県、福岡県、熊本県)報告されているが3) 、これらは遺伝子配列からHAdV-56と類似株であると考えられる。また、2011年3月にも福岡県でPCRにより同ウイルスが検出されている4) 。

今回分離されたHAdV-56は、FL細胞でのCPEの確認に2週間を要したことから、増殖が遅く、他のD種と同様に分離が困難であると考えられる。また、中和試験による型別はできず、HVRの遺伝子配列による型別が可能になったのも2011年に入ってからである。このため、HAdV-56の正確な検出数は把握されていないものの、各地からの検出報告を勘案すると、国内に広く侵淫している可能性が高いと考えられる。近年、新型HAdVの報告が増加しており、今後も各型の国内流行状況を注視する必要がある。

 参考文献
1) Takeuchi S, et al ., J Clin Microbiol 37: 1839-1845, 1999
2) Robinson CM, et al ., Virology 409(2): 141-147, 2011
3) Kaneko H, et al ., J Clin Microbiol 49: 484-490, 2011
4) 吉冨秀亮ら, IASR 32: 148, 2011

岡山県環境保健センター 木田浩司 濱野雅子 葛谷光隆 溝口嘉範 藤井理津志
岡山市保健所 村上純子 榊原啓子 出戸康子 松岡宏明
大本眼科医院 大本佐和子

今月の表紙へ戻る


IASRのホームページに戻る
Return to the IASR HomePage(English)



ホームへ戻る