2010/11シーズンに経験したAH3亜型およびB型ウイルスによる重複感染例−埼玉県
(Vol. 32 p. 331: 2011年11月号)

2010/11シーズンのインフルエンザ流行は、前半はAH3亜型およびAH1pdm09ウイルスが主体となり、後半にB型ウイルスが加わった(http://idsc.nih.go.jp/iasr/prompt/graph/in1j.gif)。当該シーズンに埼玉県で検出したAH3 亜型およびB型インフルエンザウイルスによる重複感染例について報告する。

検体は2011年第11週に定点医療機関において採取された。インフルエンザ迅速診断キット(以下、迅速キット)でA型およびB型陽性(以下、「A+B+」のように表記)との情報があり、当所におけるリアルタイムRT-PCR検査でもAH3亜型とB型の混在が確認された。分離培養ではMDCK細胞に1代目で明瞭なCPEを認め、HA価は64以上に達した。この培養上清(以下、粗培養液)を用いてHI試験を実施したところ、B/Brisbane/60/2008抗血清に対してのみ明瞭な凝集抑制が認められ、Victoria系統B型と判定される反応像を呈したが、この粗培養液は迅速キットでA+B+を示した。そこで、検体中に混在しているはずの2種類のウイルスの各々を分離するために、検体を小分けしてHI用抗血清により中和処理した後に、その希釈列を再度MDCK細胞に接種した。増殖ウイルスの型を迅速キットで確認したところ、B/Brisbane/60/2008抗血清処理検体の培養上清が迅速キットでA+B-を示した(以下、A型分離株。HA価2±)。A型分離株のHA価はその希釈列を継代して、3代目でようやく16となった。一方、A/Victoria/210/2009抗血清で処理した検体の培養上清は迅速キットA-B+を示した(以下、B型分離株。HA価64)。これも希釈、継代した後に、A型分離株とともに再度HI試験を実施し、A型分離株はAH3亜型、B型分離株は粗培養液での結果同様にVictoria系統B型と同定できた。

粗培養液がHI試験で明瞭に反応した理由は、粗培養液中のAH3亜型ウイルスのHA活性がほとんど無かったため、示したHA価がB型ウイルスのみによるものであったためと思われた。今回、もしウイルス分離培養とHI試験のみを実施した場合には、B型ウイルスのみの分離同定、という結果が導かれたと考えられる。ウイルス分離培養検査に際して、迅速キットおよびリアルタイムRT-PCR検査とのコンビネーションから得られた情報を用いることにより、重複感染の確認と2種類のインフルエンザウイルスの分離および同定が可能となった1例であった。

2009年のパンデミックを除けば、近年のインフルエンザ流行には複数種類のウイルスが関与しており、今後も重複感染例に遭遇することがあると思われる。今回経験した2種類のウイルス分離の経過を踏まえて、インフルエンザ検査の精度と感度の維持向上に努めていきたいと考えている。

埼玉県衛生研究所ウイルス担当
島田慎一 鈴木典子 峯岸俊貴 篠原美千代 内田和江 富岡恭子 河橋幸恵 岸本 剛

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