1.改正の背景
2009(平成21)年に発生した新型インフルエンザ(A/H1N1)の予防接種については、同年10月から、臨時応急的に厚生労働大臣が実施主体となって接種事業を行い、接種による健康被害については、新型インフルエンザ予防接種による健康被害の救済等に関する特別措置法(以下「特措法」という)を新たに制定し、救済を実施している。
新型インフルエンザ(A/H1N1)は、感染力は強いものの、病状の程度がそれ程重くならないものであったことから、当時の予防接種法に基づく臨時接種により、接種の対象となる方々に接種を受ける努力義務を一律に課すことは適切ではなかったため、予防接種法に基づかず、国自ら接種事業を行ったものである。
一方で、公的に実施する予防接種は、本来的には、予防接種法に基づき、国、都道府県および市町村の適切な役割分担の下で実施することが必要である。
また、先般の新型インフルエンザ(A/H1N1)発生時には、ワクチンの国内生産体制の実情を踏まえ、接種が必要な方にワクチンが十分行き渡るよう、海外からワクチンを輸入することが必要であった。こうした緊急事態の中で、海外のワクチン製造販売業者からは、各国とも、製造販売業者に損失が生じた場合の国による補償を求められた。このため、健康危機管理の観点から緊急かつ例外的な対応として、新型インフルエンザ(A/H1N1)に限り、特例承認を受けたワクチンの製造販売業者に生じた損失を政府が補償するための契約を締結できるよう、特措法において損失補償規定が設けられた。今後同様の事態が生じた場合にも、必要なワクチンを確保できるようにしておく必要がある。
こうした課題に対応するため、2010(平成22)年3月に改正法案を国会に提出した。その後、本法案は継続審議となり、第177回通常国会において、平成23年7月15日に成立した。
2.改正法の概要
(1)新たな臨時接種の創設
先般の新型インフルエンザ(A/H1N1)と同等の「感染力は強いが、病原性の高くない新型インフルエンザ」が発生した場合に適用する新たな臨時接種の類型が創設された。新たな臨時接種は、国の指示により、都道府県の協力の下、市町村が実施することとし、接種の対象となる方に対して、接種を受ける努力義務は課さないが、接種を受けるよう勧奨を行うこととしている。また、接種による健康被害の救済については、従来の臨時接種および一類疾病の定期接種の給付水準と二類疾病の定期接種の給付水準の間の水準としている。
(2)国の責任によるワクチン確保
緊急時に新型インフルエンザのワクチンを確保できるようにするため、施行の日から5年間に限り、特例承認を受けたワクチンの製造販売業者と、ワクチン接種による健康被害に対する損害賠償など製造販売業者に生じた損失を政府が補償するという契約を締結することができるようになった。
新型インフルエンザワクチンについては、細胞培養法の開発により、2013(平成25)年度中を目途に、約半年で全国民分のワクチンを国内で生産できる体制を構築することを目指しており、5年間の時限措置としている。
(3)インフルエンザの定期接種における高齢者限定規定の適用除外
インフルエンザの定期接種については、その対象が高齢者に限定されているが、新型インフルエンザであって臨時接種の対象としたものについては、高齢者以外の方についても定期接種の対象とすることができるようになった。
(4)施行期日等
上記(1)および(3)については、平成23年10月1日施行。(2)については、平成23年7月22日施行。
また、検討規定として、予防接種の在り方等の総合的な検討、緊急時におけるワクチンの確保等に関する関係者の役割の在り方等の5年以内の検討を行うこととされている。
3.その他
平成21年10月から厚生労働大臣が実施した新型インフルエンザ(A/H1N1)ワクチン接種事業により健康被害を受けた方の救済に関する給付水準についても、予防接種法の新たな臨時接種に関する健康被害救済の給付水準と同額に引き上げられた。
厚生労働省健康局結核感染症課