新型インフルエンザ対策行動計画の改定について
(Vol. 32 p. 332-333: 2011年11月号)

はじめに
2011(平成23)年9月20日に新型インフルエンザ対策閣僚会議が開催され、新型インフルエンザ対策行動計画が改定された。旧行動計画は、2009(平成21)年2月に改定されたが、その直後の4月に新型インフルエンザ(A/H1N1)が発生したことから、その対策を通じて得られた教訓等を的確に行動計画に反映させるため、内閣官房を中心に政府全体で行動計画の改定について検討が行われることになった。厚生労働省としては、8月15日の政府案の決定に先立って、新型インフルエンザ(A/H1N1)対策総括会議報告書(平成22年6月10日)、新型インフルエンザ専門家会議の見直し意見(平成23年2月28日)を取りまとめており、その提言等の多くが政府案にも反映されている。本稿では、今回の改定のポイントについて紹介したい(詳細はhttp://www.cas.go.jp/jp/seisaku/ful/kettei/110920keikaku.pdf)。

総論的事項
旧行動計画においては、病原性の高い新型インフルエンザのみを想定していたが、改定行動計画では、ウイルスの病原性・感染力等に応じた対策を迅速・合理的に実施できるよう改めている。また、新型インフルエンザ(A/H1N1)では、地域によって発生状況が大幅に異なることが確認されたことから、国レベルでの発生段階に加えて、地域レベルでの発生段階を新たに設け(地域未発生期、地域発生早期、地域感染期)、都道府県が地域の発生状況を判断し、その状況に応じた対策を実施できるようになった。

サーベイランス・情報収集
前回の新型インフルエンザ(A/H1N1)では、平時には実施していない特別なサーベイランスを立ち上げ、その実施期間も長期にわたったことから、医療機関や地方自治体等の現場に過大な負担をかけることになった。このため、改定行動計画では、平時においては、全国的な流行状況や、入院患者の発生動向、ウイルスの亜型や薬剤耐性等、季節性インフルエンザ用のサーベイランスを実施する体制を整備し、発生時には、平時のサーベイランスを基盤として、サーベイランスの強化を図ることとしている。また、この発生時のサーベイランスの強化については、医療機関等の負担を考慮し、患者数が一定数に達した段階で、縮小・中止することも明記している。

情報提供・共有
改定行動計画では、対策の現場である地方自治体や関係機関との双方向の情報共有が重要であることを明記するとともに、直接的コミュニケーション手段としてインターネットの活用についても検討していくこととしている。また、広報担当官を中心としたチームの設置などにより、一元的な情報提供を行うための組織体制を構築していくことや、情報提供に当たっては、単に結論のみを公表するのではなく、対策の決定プロセス、対策の理由、対策の実施主体等についても明確にし、分かりやすく情報提供していくことなどについても記載された。

感染拡大防止
改定行動計画では、地域発生早期においては、「感染拡大の抑制」が主たる目的となるが、既に感染が広がった地域感染期においては「被害の軽減」が主たる目的となるなど、発生段階に応じて、感染拡大防止等の対策の目的が変わることが明記されている。たとえば、地域発生早期においては、感染拡大防止を目的として、入院勧告や濃厚接触者の外出自粛、健康観察等の個人対策が実施されるが、地域感染期になった段階では、このような個人対策は中止することとしている。

水際対策
改定行動計画では、水際対策の目的は、あくまでも国内発生をできる限り遅らせることであり、ウイルスの侵入を完全に防ぐことではないことが明記されている。また、新型インフルエンザの発生が疑われる場合には、WHOのフェーズ4宣言前でも検疫強化等の水際対策を開始することや、いずれ国内に感染が広がることを前提に、海外発生期の段階から国内の医療体制等を整備していくことについても記載されている。さらに、ウイルスの特徴や発生状況等に関する情報を踏まえて、水際対策を継続する合理性が認められなくなった場合には、機動的に措置を縮小していく方針も明確化された。

医療体制
前回の新型インフルエンザ(A/H1N1)では、発熱外来に患者が集中し、外来機能を維持できなかったケースもあったことから、改定行動計画では、「発熱外来」の名称を「帰国者・接触者外来」に改め、対象者を明確にするとともに、帰国者・接触者以外の患者については、一般医療機関で対応することも明記された。また、発生状況等を踏まえて、都道府県の判断により、帰国者・接触者外来を中止し、一般医療機関での対応に切り替えることも可能としている。

ワクチン
現在の鶏卵培養法では、全国民分のワクチン製造に1年半以上の時間が必要であることが課題となっていることから、改定行動計画では、6か月以内に全国民分のワクチンを製造することを目指して、細胞培養法などの新しいワクチン製造法等の研究・開発を促進し、併せて、国産ワクチンの生産体制が整備されるまでの間は、必要に応じて輸入ワクチンの確保方策についても検討することが明記された。また、円滑な流通体制の構築や、公費で集団的な接種を行うことを基本にする方針についても明確化するとともに、発生時の迅速な対応のために、接種の法的位置づけや優先接種対象者等についても早急に整理していくこととされた。さらに、現在、原液で備蓄されているプレパンデミックワクチンについては、発生後、速やかに接種できるよう、一部をあらかじめ製剤化した形で備蓄することとなった。

社会・経済機能維持
病原性が高い新型インフルエンザが発生した場合には、社会的な影響も大きくなることが想定されることから、改定行動計画においては、(1)事業継続のための法令の弾力運用や、(2)生産・物流事業者等への医薬品・食品等の円滑な流通の要請、(3)買い占め等に備えた監視や国民相談窓口の設置、(4)中小企業などの経営安定のための政府関係金融機関への要請等、社会・経済機能を維持するための対策も新たに盛り込まれた。

今後の取り組み
今後は、ガイドラインの改定の検討にも着手することとなっており、これにより、対策の実効性の確保を図っていくこととなっている。

厚生労働省新型インフルエンザ対策推進室 神ノ田昌博

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