食品媒介事例を中心としたノロウイルス、サポウイルスの塩基配列情報および疫学情報の共有化の取り組み
(Vol. 32 p. 354-355: 2011年12月号)

我々は、ノロウイルス(NoV)等の食品媒介性ウイルスによる広域食中毒事例の探知など、食中毒調査の精度向上に資することを目的として、全国で検出されたNoVおよびサポウイルス(SaV)の塩基配列情報の共有化を試行的に実施している。昨年度までは13の地方衛生研究所(地研)の協力の下に実施していたが、今年度から51の地研に拡大するとともに、疫学情報の共有化を強化した。本報告では2011年5〜7月に発生した岩カキを中心とするカキ関連事例から検出されたNoVを中心に、2011年1月以降のNoVの遺伝子型の特徴等について取りまとめた。

NoVおよびSaVの塩基配列データ等の収集と還元
食品媒介事例を中心に散発事例、集団感染事例から検出されたNoVおよびSaVのシークエンスデータを、CaliciWeb(http://teine.cc.sapmed.ac.jp/~calicinew/)に設けた研究班専用のフォーラムの中にFASTA形式で登録することにより収集した。登録されたデータをClastalWでアラインメントした後、NJplotで系統樹を作成し、一般公開されている同ウエ ブのダウンロードのページにPDFファイルとして還元した(IASR 31: 315-316, 2010参照)。また、得られた系統樹は、厚生労働省が運営している食中毒調査支援システム(NESFD、http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/syoku-anzen/nesfd/index.html)内に設けたV-Nus Netにも掲載した。収集データは通常検査に汎用されているカプシド領域上流の塩基配列情報が主体である。また、NoVなどが検出された事例の疫学情報などに関する情報交換を専用のメーリンググループ内で行った。メーリンググループでは、全国のノロウイルス食中毒の発生状況や、その疫学情報を早期に共有するため、NESFDを通し各自治体から食中毒被害情報管理室に報告された食中毒速報やプレス発表資料なども共有している。

遺伝子型別NoV検出状況
2011年10月31日現在の塩基配列データ登録数はNoV 1,392件、SaV 97件である。採取日が2011年1月以降のNoV 338株(カプシド領域の登録例)についてみると、遺伝子群別ではGIIが272株(80%)、GIが66株(20%)であった。遺伝子型別では近年検出NoVの主流を占めているGII/4 が104株と最も多かったが、その検出割合は約31%と低下している。次いで多い遺伝子型はGII/2で73株(22%)であった。GII/2はGII/2標準株であるMelksham/89[X81879]類似株8株、Hu/GII/IPH2161-08VG06/2008/BE[JF697283]類似株64株、その他1株に大別された。以下、GII/13(37株)、GII/3(20株)、GI/7およびGII/12(各17株)などが比較的多く検出されている。SaV 36株はGI/2が29株(81%)で大半を占め、以下、GI/1(4株)、GII/3(2株)、GV/1(1株)の順であった(系統樹については、CaliciWebあるいはNESFD 内V-Nus Net参照)。

5〜7月に発生した岩カキを主とするカキ関連事例由来株の特徴
2011年5〜7月にかけて岩カキが原因と推定される食中毒の発生報告が東北地方(南部)や関東地方を中心に各自治体から相次いだ。そこで、各事例の疫学的関連性、検出遺伝子型の特徴および食中毒事例としては報告されていない岩カキ関連事例の発生状況などを把握するために、積極的な情報提供を研究班メーリンググループを通し呼びかけた。その結果、関東、東北以外の地域でも岩カキが関連する事例が発生していることが判明した。およびは、岩カキを主とするカキ(カキフライなどを含む)関連事例とその他の事例(5〜7月発生分、散発例および集団発生事例由来株を含む)に区分して、各NoV遺伝子型の検出状況をみたものである。従来のカキ関連事例と同様に、同一事例から複数の遺伝子型のNoVが検出され、また、カキ関連事例では42%をGIが占め(その他の事例では12%)、GIの検出割合が高かった。同時期に岩カキを主とするカキ関連事例から検出された遺伝子型は多様であり、GI/1、GI/5、GI/7、GI/11 などはカキ関連事例からの検出割合が高い傾向にあった()。生産海域ごとの検出遺伝子型については明確な特徴は認められなかった。

食中毒統計に基づくと、岩カキによるNoV食中毒は2002〜2010年では合計9例の報告に過ぎなかったが、2011年は7例(11月2日現在)が報告されている。生産地に関する情報から東日本大震災に伴う下水道の被害による下水の海水汚染の可能性が考えられるが、震災の影響を受けていない地域の岩カキによると思われる事例も発生した。これまでの下水のサーベイランス調査からNoVは年間を通して検出されており、夏場に喫食されることの多い岩カキについても衛生管理対策が求められている。

国立医薬品食品衛生研究所 野田 衛 上間 匡
国立感染症研究所 片山和彦 岡 智一郎 山下和予 岡部信彦
厚生労働省医薬食品局監視安全課食中毒被害情報管理室 石丸 歩 松岡隆介 温泉川肇彦
研究協力地方衛生研究所:北海道、青森県、岩手県、宮城県、仙台市、山形県、福島県、茨城県、
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