生シラスが原因食品と疑われる有症苦情事例―千葉市
(Vol. 32 p. 363-364: 2011年12月号)

2011年5月に千葉市内の高等学校2年生(生徒数8クラス327名)が校外学習を実施後、下痢、発熱、腹痛などの食中毒様症状を呈した。調査の結果、患者便からノロウイルス(NoV)、サポウイルス(SaV)およびアストロウイルス(AstV)が検出され、原因食品として生シラスが疑われたので、その概要を報告する。

事例の概要
2011年5月11日に千葉市内のA高等学校2年生325名が、校外学習でB県を訪問し、48班に分かれて班ごとに散策を行った。5月13日に欠席者が24名、早退者が9名と、体調不良の生徒が多いことに学校が気付き、保健所の調査の結果、44名が下痢、発熱および腹痛などを主症とする食中毒様症状を呈していたことが判明した。14日間の遡り喫食状況調査により、発症者44名のうち33名が校外学習時に5施設で生シラスを喫食していたことが判明したものの、11名は生シラスの喫食が無かったこと、および同様の苦情が認められなかったことなどから、当該事例は食中毒と断定するには至らなかった。

調査結果
発症者44名のうち、19名の糞便についてNoV、SaVおよびAstVのリアルタイムPCRを実施した。ウイルスが検出された検体についてはRT-PCR後ダイレクトシークエンス法により塩基配列を決定し、相同性検索と系統樹解析を実施した。

その結果、15名からNoV、SaVおよびAstVが単独または複数検出された()。ウイルス別にみると、NoVは13名からGI/2、GII/2、3、12、13、14の6遺伝子型、SaVは11名からGI/2、GII/3の2遺伝子型、AstVは3名から1型、4型が検出された。

考 察
校外学習時に発症者44名を含む計96名が14班に分かれて行動していたが、そのうち5つの施設で生シラスを喫食した7班38名中33名が発症していた。また、検査を実施した19名中16名が生シラスの喫食歴があり、その16名中15名からウイルスが検出されたが、生シラスの喫食歴の無い3名からはウイルスは検出されなかった()。以上のように生シラスの喫食の有無と発症またはウイルスの検出の有無との間に有意な相関性がみられた。また、生シラスを喫食した33名のうち、発症日時が特定できている31名についての喫食から発症までの時間は27.5〜71時間(平均42.4時間)であり、潜伏時間からも生シラスが原因であることは否定できなかった。

また、現在、食中毒調査支援システム(NESFD)において、全国の協力地方衛生研究所から提供されたNoV、SaVの遺伝子配列情報の解析結果が公開されている(V-Nus Net)。今回検出されたNoV GII/2、14、およびSaV GI/2については他自治体登録株と同じクラスターに分類されているが、NoV GII/3、12、13は他登録株と一致するものは無く、また、NoV GI/2、SaV GII/3については本事例の関連株のみが登録されていた。このことも本事例が地域で流行しているウイルス株による感染症、あるいは調理従事者等からの二次汚染による食品媒介事例ではなく、食品の原材料汚染による事例である可能性を示唆している。

シラスは鮮度の低下が早く、生食されるのは漁獲地近郊が多く、生のまま広域に流通することが少ないため、生シラスを原因食品とするウイルス性食中毒についてはこれまで報告がみられていない。しかし、シラス(カタクチイワシの稚魚)はプランクトンを食餌としており、漁獲域が沿岸部であることから、カキなどの二枚貝と同じく、腸管にNoV等のウイルスを保持する可能性が考えられる。現在までNoVなどのウイルスがシラスの体内に保持されていたものなのか、またはシラスの体表を汚染していたものなのかの検証には至っていないが、複数のウイルスや種々の遺伝子型が患者から検出されたことから、なんらかの形で直接的あるいは間接的にシラスが下水の汚染を受けた可能性が考えられる。

以上のように本事例は生シラスの喫食とNoV、SaV、AstVの検出、および消化器症状の有無とに因果関係が強く認められ、生シラスを原因食品とするウイルス性食中毒が疑われる事例であった。また、V-Nus Netによる全国規模での分子疫学的解析結果の共有が、各地の流行株の動向把握に役立つとともに、疫学調査の科学的根拠となる可能性を示す事例と思われ、今後とも迅速なデータの共有が望まれる。

千葉市環境保健研究所
田中俊光 横井 一 水村綾乃 小林圭子 木原顕子 都竹豊茂 中台啓二
千葉市保健所
加曽利東子 落合弘章 大山照雄 西村正樹 山本一重
国立医薬品食品衛生研究所 野田 衛

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