ノロウイルスの遺伝子型
(Vol. 32 p. 365-366: 2011年12月号)

2007年メキシコ(カンクン)で行われた第3回国際カリシウイルス学会、2010年チリ(サンタクルス)で行われた第4回同学会で、ノロウイルスサイエンティフィックコミッティー(NoV SC)によって協議された、新たなノロウイルス分別手法の国際標準化に関して、現在の進行状況を報告する。

NoV SCによる合意事項
ウイルスのFamily(科)とGenus(属)は、形態学的特徴、病原性、ゲノムの構造などを加味して、国際ウイルス命名委員会(International Committee on Taxonomy of Viruses; ICTV, http://www.ICTVonline.org/index.asp)が決定する。ノロウイルスは、ICTVのウイルスデータベース; ICTVdBの、カリシウイルスの項目(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/ICTVdb/ICTVdB/12000000.htm)に、カリシウイルス科に属する一つのウイルス属として定義されている。カリシウイルス科(Caliciviridae )には、現在5つのウイルス属(Genus)の存在が認定されている。Norovirus、Sapovirus、Vesivirus、Lagovirus、Nebovirus である。Norovirus (ノロウイルス属)は、Norwalk viruses (ノーウォークウイルス種)を唯一の種(Species)として持つ。我々が通常使用している“ノロウイルス”という呼び名は、Genusを示すものであり、Speciesを示す物ではない。ノロウイルス属に他のウイルス種が発見されると、この呼び方を改める必要が出てくる。ICTVは、Species以下の分別方法には関与しない。NoV SCは、ICTVの関与しないSpecies以下の分別方法に関して以下の合意を得た。

1.ノロウイルスのgenotypingの一つにVP1領域の塩基配列を用いる。

2.VP1の解析により新たなgenotype番号を提唱する際には、少なくともVP1全長の塩基配列を決定し、それに基づきgenotypingを行ってから報告する。

3.VP1領域のgenotype番号、並びに表示方法はNoV SCに従う。

4.ノロウイルスの遺伝子組み替え型を、キメラウイルスと呼ぶ。

5.ORF1領域(非構造タンパク質領域)のgenotypingを開発し提言する。

6.NoV SCのメンバーが共著で、新たに提唱するgenotyping法を発表する。

7.ノロウイルスは、提唱するgenotyping法によって分別し、宿主の違いで分別せず、報告された順に通し番号を与える(ヒトに感染するノロウイルス; HuNoVのGIIには、ブタから発見されたブタノロウイルス;SwNoVも含まれる)。

これらの合意事項に基づき、現在、NoV SCによるArchives of Virologyへの投稿論文の執筆と意見調整、Fields Virology第6版の執筆が始まっている。

NoV SCによるnew genotyping system案の現状
2007年に提出した、何を目的としてゲノタイピングを行っているのかを再考する必要があるとする我々の動議を受け、抗原性予測、レセプタートロピズム研究を目的としたVP1 typingを継続することが決定した。これに、polymerase, 3A-like protein (p22)の機能解析などから、非構造タンパク質領域の機能反映を目的として、polymerase領域も新たなターゲットとすることを前提に、2010年に得られた前述の7項目の合意事項から、下記原案の策定が進行中である。

1.GenotypingはNoV SCの提唱方法に従って行い、genotype番号、並びに表示方法はNoV SCに従う。

2.Koopmansらが運営するNoro-net上に新規genotypingツールを公開する(http://www.noronet.nl/databases/TypingtoolBackgroundInformation.jsp)。

3.ノロウイルスの新規genotypingに必要な基準株には、できる限りgenome全長塩基配列の報告された株を用いる。

4.ノロウイルスのgenotypingは、非構造タンパク質の機能、ORF1、2ジャンクション領域で起きるリコンビネーションを考慮に入れ、polymerase領域からVP1領域にまたがる核酸塩基配列を用いて行う。表記方法は、インフルエンザウイルスなどにならい、Hu/NoV GII.3p4/TCH04-577/2004/USとなる可能性が高い(VP1のタイプを先に表記するか、polymeraseのタイプを先に表記するかで意見が割れている)。

2012年には最新のNoV SC推奨genotype法とその表記方法を公開する予定である。

国立感染症研究所ウイルス第二部 片山和彦

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