ロシアにおけるBorrelia miyamotoi 感染による回帰熱の流行
(Vol. 32 p. 370-371: 2011年12月号)

Borrelia miyamotoi は1995年にわが国で初めて分離された回帰熱ボレリアの一種で、Ixodes 属マダニによって伝播される1) 。このボレリア属菌は日本やロシアではIxodes persulcatus (シュルツェマダニ)によって保菌されている。また米国や欧州ではI. ricinus I. scapularis I. pacificus から本菌のDNAが検出されている。一方で本ボレリアは培養が困難なため、これまでに適切な実験室診断法が確立されていないこと、またB. miyamotoi を媒介するマダニはライム病ボレリアも保菌しており、このボレリアとの重複感染がしばしば起こるため臨床診断が極めて難しいことからその実態はほとんど把握されていなかった。

本報告では、ライム病やダニ媒介脳炎などダニ媒介性感染症が推定された患者302名の臨床検体を用い、これら病原体に対する実験室診断を試みている。ボレリア感染症の確定診断は全血からの病原体ゲノム検出により行われた。また、ダニ媒介脳炎の確定診断は抗体検査もしくは全血からのウイルスRNA検出により行われた。これによると、患者302名中、回帰熱ボレリアであるB. miyamotoi  DNAが51名(17%)から検出され、またライム病ボレリアであるB. garinii DNAが21名(7%)から検出された。また抗ダニ媒介脳炎ウイルス抗体が44名(14%)から見出され、このうち10名からはダニ媒介脳炎ウイルスRNAが検出されている。

B. miyamotoi 感染確定例51例中、48例で抗Borrelia IgM抗体が見出され、また3例からは抗ダニ媒介脳炎ウイルス抗体が検出された。このうち抗ボレリア抗体陰性例およびダニ媒介脳炎ウイルス感染例を除いた46例について、ライム病確定例21例との比較を行った。B. miyamotoi 感染症例群の平均年齢、性別ではライム病症例群と有意差はみられなかった。一方、マダニ刺咬から発症までの日数はB. miyamotoi 感染症例群では12〜16日(平均15日)であったことに対して、ライム病症例群では7〜13日(平均10日)であり、有意差がみられた(P <0.001)。また、発症から来院までの期間はB. miyamotoi 感染症例群では1ないし2日(平均1日)であったが、ライム病症例群では2〜9日(平均5日)であった。このことから、B. miyamotoi 感染症例群では発症後急速に症状が悪化していることが推定された。

B. miyamotoi 感染症例群とライム病症例群の間では、その臨床症状にも違いがみられた。ライム病症例群では91%で感染初期の特徴的な皮膚症状である遊走性紅斑(EM)がみられた。一方で、B. miyamotoi 感染症例群でのEM発症例はわずか9%にとどまった。B. miyamotoi 感染症例群では、ほぼすべての症例で発熱、倦怠感、頭痛がみられた。またB. miyamotoi 感染症例群では、11%(95%信頼区間:2〜20%)の患者で回帰性の発熱がみられた。抗菌薬投与前のエピソードとして、発熱の回数は2〜3回で、その間隔は平均9日(2〜14日)であった。

本感染症では抗菌薬投与による治療が行われている。使用された抗菌薬はCeftriaxone(2g/日、14日間)もしくはDoxycycline(100 mg× 2/日、14日間)であり、いずれも効果がみられた。一方、抗菌薬投与後、15%の患者でJarisch-Herxheimer反応がみられた。

訳者コメント:ロシアで検出されたB. miyamotoi は、その塩基配列解析から、1995年に北海道でI. persulcatus および野鼠より分離されたB. miyamotoi と同一か極めて近縁な関係にあると考えられる。このため、B. miyamotoi 感染による回帰熱は、I. persulcatus が生息する地域(日本、韓国、中国、モンゴル、モスクワ以東の旧ソビエト連邦)で潜在的に蔓延している可能性が高い。わが国では、B. miyamotoi 感染による回帰熱症例はこれまで報告されていないが、I. persulcatus が生息する地域(北海道のほぼ全域と本州中部の山間部)で本マダニ活動期である初夏〜秋にかけて発生する回帰性の発熱を呈した患者では、本疾患を鑑別対象とする必要があると思われる。

 参考文献
1) Fukunaga M, et al ., Int J Syst Bacteriol 45: 804-810, 1995

(CDC, EID, 17, 1816-1823, 2011)

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