ヒラメが原因食と推定される集団嘔吐下痢症―兵庫県
(Vol. 32 p. 369-370: 2011年12月号)

2011(平成23)年6月8日に厚生労働省薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会から「生食用生鮮食品による病因物質不明有症事例についての提言」が行われ、Kudoa septempunctata Sarcocystis fayeri が有症事例の原因物質となりうることが示された。これを受けて平成23年6月17日の厚生労働省医薬食品局食品安全部長通知によって、当該寄生虫が原因と考えられる有症事例が報告された時は、食中毒事例として取り扱われることとなった。

これに基づいて本県においてもクドア属の関与が疑われる事例の調査を行ったところ、平成23年6〜8月にK. septempunctata が原因と推定される複数の事例を経験したので、その概要を報告する。

事例1:6月24日に県健康福祉事務所が医療機関より「食中毒症状を呈する患者を診察した」との連絡を受けた。同事務所の調査では、6月23日に同市内の飲食店を利用した1グループ11名のうち6名が嘔吐、下痢等の食中毒症状を呈しており、有症者には共通してヒラメ刺身が提供されていた。この施設は6月24日にも複数グループからの予約を受けており、健康福祉事務所による前日の事件の立入調査時点で既に会食を始めていた1グループ以外は、ヒラメを除いたメニューが提供された。6月25日になって、24日のヒラメを含むメニューを提供したグループから有症者が出たとの連絡があり、同事務所が再び調査したところ、52名の喫食者中18名が食中毒症状を訴えていた。なお、ヒラメを除いたメニュー喫食の6グループ20名に有症者は無かった。23日と24日に提供されたヒラメは同一の業者から仕入れられていた。

23日提供のヒラメ残品(冷凍)および24日提供のヒラメ残品(冷蔵)について、当所でK. septempunctata の検出を行ったところ、23日および24日のヒラメ残品からリアルタイムPCR法でクドア属遺伝子を、24日の冷蔵残品から鏡検法で6〜7個の極嚢を有したK. septempunctata と思われる胞子を検出した(6.0×106/g)。その後、同店の生け簀で保管されていた残余のヒラメ9尾を調べたが、鏡検法ではK. septempunctata は検出されなかった。

以上の結果から本事例はヒラメを介したK. septempunctata による食中毒であることが強く示唆された。

事例2:6月28日に飲食店から健康福祉事務所に、6月27日に食事を提供した数名が食中毒症状を呈している、との連絡があった。6月27日に同市内の飲食店を利用した7グループ52名中4グループ11名が嘔吐、下痢等の食中毒症状を呈し、有症者に提供されたメニューにはヒラメの刺身が含まれていた。

この施設ではヒラメを4枚に下ろした状態で仕入れ、調理場で刺身用に調製して客に提供していた。このヒラメの残品からリアルタイムPCR法でクドア属遺伝子を、鏡検法でK. septempunctata と思われる胞子を検出した(8.6×106/g)。

健康福祉事務所による疫学調査や、残品のヒラメの検査結果からK. septempunctata が寄生したヒラメが原因食品と推定された。

事例3:8月1日に医療機関から、7月31日に同一の飲食店を利用した複数の食中毒様患者を診察したとの連絡を受けた健康福祉事務所の調査で、7月31日に同市内の飲食店を利用した3グループ33名のうち12名が嘔吐、下痢等の食中毒症状を呈していることが判明した。有症者に提供されたメニューにヒラメの刺身が含まれていた。

同施設ではヒラメを提供した31日当日に仕入れた3尾のうち、2尾を刺身に調製し1尾を有症者があった3グループを含む4グループに、他の1尾は有症者が無かった4グループに提供した。

この事例では有症者に提供されたヒラメの残品は無かったが、1名の有症者吐物からリアルタイムPCR法でクドア属遺伝子を検出した。また28sリボソームDNAを増幅するコンベンショナルPCR法でK. septempunctata 遺伝子を検出した。

本事例でも有症者全員がヒラメの刺身を喫食しており、疫学調査や吐物の検査結果から、K. septempunctata が寄生したヒラメが原因食品と推定された。

まとめ
これらの3事例は、潜伏時間の中央値が6時間前後、主要症状が嘔吐と下痢で、一部軽度の発熱がみられるなど、発症経過や臨床症状がほぼ共通していることから、同一の病原物質の関与が考えられた。このうちの2事例では提供されたヒラメ残品からK. septempunctata が検出され、他の1事例では患者の吐物からK. septempunctata の遺伝子が検出され、これが原因物質である可能性が示された。

食中毒等の感染源調査においては疫学調査結果と共に、原因食品や患者検体からの原因物質の検出が重要となる。今回の1事例では患者吐物に多くのK. septempunctata 遺伝子が含まれており、検体として有用であることが確かめられた。しかし、吐物が採材される機会は少なく、さらに原因食のヒラメが保存される事例も少ないため、現状では原因物質を特定できる事例は限定されている。このため、比較的採材が容易な患者便等を対象としたK. septempunctata 遺伝子の検出法についても検討する必要があると思われる。

兵庫県立健康生活科学研究所 齋藤悦子 秋山由美 近平雅嗣

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