佐賀県における2011/12シーズンのAH3亜型インフルエンザウイルス初検出例
(Vol. 32 p. 367: 2011年12月号)

2011年10月7日(第40週)に佐賀県中西部のインフルエンザ定点において20代男性が、インフルエンザ迅速キットでA型と診断された。また、同地区の小児科定点でインフルエンザと診断された患者5名(0歳11カ月〜11歳)から鼻腔ぬぐい液が10月8日〜14日(第40〜41週)に採取された。それらの検体についてインフルエンザウイルスHA領域を増幅するRT-PCRを行った結果、5件すべてからAH3亜型の遺伝子を検出した。このPCR増幅産物の塩基配列をダイレクトシークエンス法により決定し、分子系統樹解析を行った。

佐賀県内で2010/11シーズンまでに検出したAH3亜型ウイルスは、Perth/16クレードとVictoria/208クレードの両クレードに属する株が混在する状況であった()。

今回、2011/12シーズンに県内で初検出したインフルエンザウイルス5件のHAアミノ酸解析領域はすべて同一で、Victoria/208クレード内のD53N、Y94H、I230V、E280Aにアミノ酸置換を持つサブクレードに位置していた()。また、2011年9月上旬(第36週)横浜市1) と10月中旬(第42週)三重県2) でインフルエンザ集団発生事例から分離されたAH3亜型株はA198S、V223I、N312Sのアミノ酸置換を持つVictoria/208クレードのサブクレードに属していたが、今回の佐賀県の検出例はこれらの株とは異なるサブクレードに属していた。

さらに、同検体からMDCK細胞2代継代で分離された3株について2011/12シーズン同定キット(国立感染症研究所から配布)を用いて赤血球凝集抑制試験(HI)を行った。抗A/Victoria/210/2009(H3N2)血清(ホモ価1,280)に対してHI価80〜160と低く、抗原性変異を推測する価を示した。抗A/California/7/2009(H1N1)pdm09血清(ホモ価640)、抗B/Brisbane/60/2008(Victoria系統)血清(ホモ価2,560)、抗B/Bangladesh/3333/2007(山形系統)血清(ホモ価1,280)に対してはHI価10未満であった。

今回のAH3亜型インフルエンザウイルスは、例年よりやや早い時期の検出であった。この発生状況から当該地区および県内に至る流行の拡大も危惧されたが、この地区では10月24日(第43週)以降、新たな患者発生報告はみられていない。

 参考文献
1)川上 千春、他、IASR 32: 334-335, 2011
2)矢野 拓弥、他、IASR 32: 336-337, 2011

佐賀県衛生薬業センター
増本久人 南 亮仁 野田日登美 甘利祐実子 諸石早苗 江口正宏 古川義朗 鶴田清典
佐賀県健康福祉本部健康増進課
森屋一雄 永尾一恵
国立感染症研究所インフルエンザウイルス研究センター第1室
藤崎誠一郎 岸田典子 小田切孝人

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