2011年10月、三重県内で台風による大雨後にレプトスピラ症患者の発生をみたのでその概要について報告する。
症例:63歳男性。2011年9月下旬、台風後の片付けのため畑等で作業に従事。9月28日より感冒様症状を認め、10月3日に近医を受診し、セフトリアキソンとレボフロキサシンを処方される。10月4日に症状が悪化したため山田赤十字病院受診、入院となる。発熱(38.1℃)、筋肉痛、腹痛等を訴え、播種性血管内凝固症候群(DIC)、血圧低下、黄疸、腎機能障害を認める。臨床症状および血液所見等よりレプトスピラ症を疑い、10月11日にEDTA全血、尿、血清が検査のため三重県保健環境研究所に搬入された。
血液所見(10月4日受診時):WBC 16.7×103/μL(↑)、RBC 4.17×106/μL(↓)、PLT 26×104/μL(↓)、CRP 36.7 mg/dL(↑)、CPK 219 IU/L(↑)、T.Bil 2.7 mg/dL(↑)、D.Bil 1.9 mg/dL(↑)、ALT 39 IU/L、AST 100 IU/L(↑)、ALP 797 IU/L(↑)、BUN 42 mg/dL(↑)
血液、尿についてはコルトフ培地「生研」による分離培養およびLeptospira 属flaB 遺伝子を標的にしたPCR法によるLeptospira 属特異遺伝子の検出を試みた。また、血清に対しLeptospira 属6血清型(Icterohaemorrhagiae、Canicola、Autumnalis、Hebdomadis、Australis、Pyrogenes)を用いて顕微鏡下凝集(MAT)法による抗体価の測定を実施した。
結果、培養法およびPCR法においてLeptospira 属菌および特異遺伝子は検出されなかった。MAT法による抗体検査ではIcterohaemorrhagiaeが抗体価10倍、Hebdomadisが640倍、その他の血清型はすべて10倍未満であった。患者に対しては10月4日よりメロペネム、10月19日よりアモキシシリンが投与された。患者の容態は10月下旬より回復に向かい、11月1日に退院となった。また、11月17日に採材した血清のHebdomadis抗体価は1,280倍であった。
今回の症例は、大雨後の農地において作業中にLeptospira 属菌に感染したと考えられる事例であった。当該農地付近でのLeptospira 属菌浸潤状況は不明であるが、同保健所管内では2009年4月にもHebdomadis感染事例の報告がなされている。三重県内のイヌにおけるHebdomadis浸潤状況について、岡本らは三重県中勢地区のイヌ165頭中19頭(11.5%)が抗体を保有し、うち5頭はMAT法で320倍以上の高い抗体価を示していたと報告しており、Leptospira 属菌の環境中での存在が疑われている(平成22年度獣医師会三学会・近畿)。したがって、三重県下においてLeptospira 属菌が存在し、大雨等によるヒトとの接触によって感染が成立することは充分考えられる。現在、レプトスピラ症は日本国内では稀な疾患であるとされているが、大雨等が生じた際、感染症の可能性としてレプトスピラ症も考慮に入れる必要があると考えられる。
三重県保健環境研究所 赤地重宏 片山正彦 山口哲夫
山田赤十字病院 森 一樹 坂部茂俊
三重県伊勢保健福祉事務所 板羽聖治 萩原好子 鈴木まき
国立感染症研究所 小泉信夫