背景・端緒
2011年9月9日、自治体Bの保健所へC社の事業所の担当者から9月7〜8日にかけて社員 300人中30人が腹痛、下痢等の食中毒症状を訴えていることが報告された。同日、自治体EのF社およびG社事業所からも食中毒様症状の集団発生が管轄保健所へ報告された。いずれの事業所もA社が委託を受けて営業している社員食堂を利用していた。9月12日以降さらに、自治体H、I、J、K、Lの保健所に患者発生が報告され、7自治体(9保健所)にまたがる集団食中毒事件となった(表1)。本事例は広域でかつ公衆衛生上の問題があると考えられ、またその他にも本年は複数の大規模広域食中毒事例が発生していることから厚生労働省医薬食品局食品安全部監視安全課食中毒被害情報室から国立感染症研究所実地疫学専門家の調査依頼があり、本調査を行うこととした。
調査方法
調査は患者が発生した自治体から喫食状況を含む患者の情報を収集し、対照者の調査が実施されている場合は対照者調査の情報も収集した。症例対照研究での症例定義は(1)疑い例は8月30日〜9月16日にA社が営業する食堂で食事し、水様便、粘液便または腹痛をきたした者、(2)確定例は(1)を満たし便検査からO148が検出された者、とした。対照群は、8月30日〜9月16日にA社が営業する食堂で喫食し、水様便、粘液便、軟便、腹痛、嘔吐または吐き気が無い者、とした。発症と喫食の関連はオッズ比(以下OR)算出およびFisher's exact testを行った。原因食品についての調査は原因と考えられている食品の遡り調査を関係する自治体に対して依頼をした。病原体に関する情報は患者に関しては発生自治体等に対して検査結果(菌の分離状況と毒素の検出およびPFGE等)についての情報収集を依頼した。
結 果
患者発生状況:患者は9月5日より発生し、9月7日がピークで、最後の患者が9月12日に報告された(図1)。患者の報告数は7自治体から合計516人であった。自治体Eから得た症例対照研究による発症と喫食の関連を検討した(表2)。9月5日の昼食は「つけ麺」のOR(13.77)が有意に高かった。9月6日の昼食は「うどん」のOR(54.51)で有意に高かった。9月7日の昼食は「ピリ辛味噌つけ麺」のOR(6.54)が有意に高かった。長ネギの使用状況については確認中である。各保健所が実施した患者検便と収去食材の細菌検査で一部の生食用の検食の長ネギおよび検食のメニューからO148 ST+を検出した(本号12ページ参照)。保健所が実施したふきとり検査ではO148は陰性であった。
遡り調査:遡り調査は現在実施中であり、A社運営の食堂でのマニュアルの収集、店舗での調理等の作業について情報収集中である。食品は加工工程、消毒、洗浄、保管、加工に利用する機材などについての情報収集中である。食品の流通については仕入先、流通の経路、流通方法、管理方法などについて情報収集中である。なお、A社は本事例発生後、生野菜を使用するレシピに関するマニュアルの改訂等を行った。
結 語
本事例は暫定的な解析であるが、7自治体にまたがり症例数が516人の大規模な広域食中毒事例であった。2011年わが国では本事例以外にも複数の大規模な広域食中毒が報告されており、本調査が今後の食品衛生における公衆衛生上の対策へ活用されることが期待される。
厚生労働省医薬品局食品安全部監視安全課食中毒被害情報室
国立感染症研究所感染症情報センター、実地疫学専門家養成コース
東京都福祉保健局健康安全部食品監視課
港区みなと保健所生活衛生課
中央区保健所生活衛生課
神奈川県保健福祉局生活衛生部食品衛生課
横浜市健康福祉局健康安全課
川崎市健康福祉局健康安全室
相模原市健康福祉局保健所生活衛生課
山梨県福祉保健部衛生薬務課
長野県健康福祉部食品・生活衛生課
長野市保健所生活衛生課