小児からの百日咳類縁菌Bordetella holmesii の分離症例、2011年―大阪府
(Vol. 33 p. 15-16: 2012年1月号)

Bordetella holmesii は免疫系に基礎疾患を有する青年・成人患者に感染し、敗血症・心内膜炎などの起因菌となる。近年では基礎疾患を持たない青年・成人に感染し、百日咳と同様な臨床像を引き起こすことが知られている。わが国では2008〜2009年に埼玉県と北海道で初めてB. holmesii が臨床分離され、その後、2011年の百日咳集団感染事例において5株が分離された。これら分離症例はすべて青年・成人患者のものであり、乳幼児からの分離症例は認められていない。今回、百日咳様の症状を呈する小児患者からB. holmesii の分離を経験したので、その臨床像ならびに検査所見を報告する。

患者:女児、2歳7カ月
既往歴:喘息
予防接種歴:DPTワクチン3回接種
家族歴:同時期に弟(月齢7カ月)に咳嗽症状あり
主訴:咳嗽、微熱
臨床経過図1
8月28日:咳嗽出現
8月29日:夕方より発熱(37.6℃)が認められ、当院小児科を受診。全身状態は良好であるが、胸部レントゲンで気管支陰影の増強があり、気管支炎と診断された。喘息の既往もあり気管支拡張薬の吸入を施行。また、マイコプラズマ、百日咳の可能性を否定できなかったため、クラリスロマイシンの経口投与を行った。
8月30日:朝は38℃台の発熱があったが日中は36℃台まで低下。咳嗽は改善傾向であったが、喘息症状あり。
8月31日:全身状態は良好。気管支拡張薬の吸入を施行
9月2日:発熱なし、咳嗽も改善。8月31日の検査結果と臨床症状からマイコプラズマ気管支炎と診断
9月5日:軽快終診

検査所見表1):百日咳菌とマイコプラズマに対する遺伝子検査(LAMP)は、両者ともに陰性を示した。培養検査は血液寒天培地(炭酸ガス培養、35℃、24時間)およびボルデテラCFDN培地(好気培養、35℃、7日間)により実施し、ボルデテラCFDN培地において培養6〜7日後に透明感のある白色コロニーを認めた。被菌株はグラム染色においてグラム陰性短桿菌を示し、シークエンス解析(16S rRNA、recA )によりB. holmesii と同定された。なお、血液検査ではイムノカード法により抗マイコプラズマIgM抗体が陽性と判定された。

B. holmesii の国内分離症例はこれまで青年・成人患者に限定されていたが、本症例において百日せきワクチン既接種の小児にも感染することが確認された。患児は激しい咳嗽症状と血液検査所見(IC陽性)から当初マイコプラズマ気管支炎と診断され、クラリスロマイシンが1週間処方された。結果的に本治療により外来通院で症状は軽快したが、治療中にB. holmesii 検出の情報を得ることはできなかった。菌培養検査では、B. holmesii の生育が遅いため血液寒天培地(24時間培養)からは分離されず、ボルデテラCFDN培地でも培養7日目で釣菌可能となっている。通常、血液寒天培地での培養の場合、2日以上の観察をすることは少なく、ボルデテラCFDN培地でも7日目まで注意深く観察することは稀である。そのためB. holmesii は現在の病原体検査では検出され難く、本菌感染症の多くが見逃されている可能性が示唆される。百日咳様疾患の場合、百日咳菌の検索とともに、B. holmesii が検出される可能性があることを念頭に置き、検査を進めていくことが必要である。

岸和田徳洲会病院臨床検査科 櫛引千恵子 西戸温美
岸和田徳洲会病院小児科 西田理行 桑原功光
国立感染症研究所細菌第二部 大塚菜緒 鰺坂裕美 蒲地一成
大阪府立公衆衛生研究所 勝川千尋

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