2011年9月に、高知県幡多福祉保健所管内でレプトスピラ症の集団発生があったのでその概要を報告する。
患者発生状況: 2011年9月30日、医療機関より同一事業所の電柱建替え作業従事者3名が次々に高熱で入院し、レプトスピラ症が疑われると保健所へ報告があった。調査したところ、当該事業所は従事者9名(作業員4名、事務5名)であり、このうち9月14日から現場作業を実施した4名中3名が入院した。
臨床症状(臨床所見 表1)
症例1:患者は28歳・男性で、9月24日に発病し、9月26日に医療機関を受診し入院した。臨床症状は発熱(39.5℃)、頭痛、関節痛、倦怠感、肝障害、嘔吐(1回)、下痢(1回)等であった。ペニシリン系薬剤〔9月28日〜10月3日までアンピシリン(ABPC)、10月4日〜7日までアモキシシリン(AMPC)〕投与等の治療により回復し、10月8日に退院した。
症例2:患者は50歳・男性で、9月25日に発病し、9月26日に医療機関を受診、28日に入院した。臨床症状は発熱(39.1℃)、頭痛、関節痛、倦怠感、肝障害、咳等であった。ペニシリン系薬剤(9月28日〜10月3日までABPC、10月4日〜7日までAMPC)投与等の治療により回復し、10月8日に退院した。
症例3:患者は28歳・男性で、9月28日に発病し、9月29日に医療機関を受診し入院した。臨床症状は発熱(39.6℃)、頭痛、倦怠感、咳、咽頭痛等であった。ペニシリン系薬剤(9月29日〜10月3日までABPC、10月4日〜7日までAMPC)投薬等の治療により回復し、10月5日に退院した。
病原体および抗体の検出:レプトスピラ症の実験室診断は、レプトスピラの分離、PCR法によるレプトスピラDNAの検出、あるいは顕微鏡下凝集試験法(MAT)による抗体の検出(ペア血清による抗体陽転または抗体価の有意な上昇)により行われる。今回の3症例は国立感染症研究所・細菌第一部へ検査依頼し、MATおよびPCRが行われた。投薬後の全血および尿のPCRは3症例すべて検出限界以下であった。一方、国内で報告のあるレプトスピラ15血清型生菌を用いたMATにより、3症例ともHebdomadisおよびKremastosに対して抗体陽転が認められたため、これら患者のレプトスピラ感染が血清学的に証明された。
考 察:病原性レプトスピラは、ネズミなどのげっ歯類をはじめ、多くの野生動物やウシ・ブタなどが保菌している。病原性レプトスピラは、保菌動物の腎臓に定着し、尿中に排菌され、ヒトは、この尿あるいは尿で汚染された水や土壌と接触することで経皮的に感染する。海外では洪水の後にレプトスピラ症の大発生が起きているが、国内でも2004年に愛媛県、2005年に宮崎県、2011年には三重県(IASR 32: 368-369, 2011参照)で台風とそれに伴う洪水の後にレプトスピラ症患者が発生している。今回の高知県での事例では、9月初めに大雨があった後、約10日後の作業実施開始前後から雨が続いていた。作業現場は地盤がぬかるんだガマが生育する沼地で、近くには牛舎があるなど自然豊かな土地である。患者は、作業中長靴を着用していたが泥が入り込むこともあった。また、手袋を着用していない場合もあった。患者3名の手や足に傷は認められていない。MATの結果、3名とも同じ血清型に対して抗体価が上昇していた。このことから、今回は同じ作業現場でレプトスピラ保菌動物の尿で汚染された水や土壌と接触し、経皮的に同時期に感染し集団発症したと考えられる。今後は台風など大雨後の沼地や河川での作業、農作業に警鐘が必要と考えられた。
高知県衛生研究所 松本道明 山本浩徳 今井 淳
高知県幡多福祉保健所 湯村育代
竹本病院 藤永泰宏 竹本範彦
国立感染症研究所細菌第一部 小泉信夫