2011年の麻しん患者報告数は178件で、第13週にヨーロッパへの渡航歴のある日本人が1例、翌第14週にはフランスを推定感染地とするフランス人症例が2例報告されたのを端緒として、流行が始まった。その後、第17週の23件を最多とし、第13週〜24週までの発生が128件と、全体の71.9%を占めていた。
麻しん患者等の特徴:学校等の休校が相次いだ2008年の大流行時と発生状況が大きく異なり、学校等におけるクラスター発生は5事例(1事例の最大患者数は4人)にとどまり、散発例がほとんどであった。
患者を年代別にみると、1〜4歳が40件(22.5%)と最多で、次いで30〜34歳の24件(13.5%)であった(図2)。
ワクチン接種歴では、接種2回が10件( 5.6%)、接種1回が55件(30.9%)、接種無しが58件(32.6%)、接種歴不明が55件(30.9%)であった。
PCR検査の状況:保健所から検査依頼を受けてPCR検査を実施したのは258件であった。各週のPCR検査の結果を図3に示す。麻しん遺伝子が検出された者(陽性者)は第13〜23週に集中しており、第24週以降については、1件を除いてすべて陰性であった。
陽性例77件(病原体定点からの検体4件も含む)の週別遺伝子型を表1に示す。型別判定が可能であった74件のうちワクチン株4件を除き、全例が海外流行型であった。
2.東京都における麻しん対策
平常時の取り組み:東京都では、麻しんの非流行時においても、予防接種率の向上に取り組むとともに、都民や関係機関に対して麻しんに関する情報提供や正しい知識の普及啓発を行っている。特に、集団感染が起こりやすい学校等の担当者に対しては、麻しん患者が発生した際の対応手引きを作成し、拡大防止を図っている。
また、麻しんの病原体レファレンス事業や積極的疫学調査等を実施することで、流行状況やウイルスタイプの分析を行っている。
麻しん流行時の取り組み:2011年の都内流行時、東日本大震災の被災地支援にボランティアも多数参加しており、被災地への流行拡大も懸念されたことから、マスメディア、ホームページ等を積極的に活用することにより、定期予防接種の勧奨や知識の普及を図った。
また、医療機関等に対しても随時情報提供を行い、早期の患者発見に向けた対策の強化を図った。
3.まとめ
麻しんの流行防止には、平常時からの取り組みに加えて、患者の早期発見と流行状況に応じた対策をタイムリーに行うことが重要である。2011年の都内の麻しん流行が比較的小規模にとどまったのは、これらの対応が功を奏した結果と評価できるものと考える。
東京都健康安全研究センター
住友眞佐美 甲斐明美 長谷川道弥 早田紀子