2011年度は北海道、宮城県、山形県、福島県、茨城県、栃木県、群馬県、千葉県、東京都、新潟県、石川県、長野県、静岡県、愛知県、三重県、京都府、大阪府、山口県、香川県、高知県、福岡県、佐賀県、宮崎県、沖縄県の24都道府県で感受性調査が実施され、各都道府県衛生研究所において抗体価の測定が行われた。2012年1月10日現在、 6,647名についての結果が報告され、5歳ごとの年齢群別内訳は0〜4歳群:925名、5〜9歳群:525名、10〜14歳群:608名、15〜19歳群:684名、20〜24歳群:565名、25〜29歳群:640名、30〜34歳群:585名、35〜39歳群:571名、40〜44歳群:398名、45〜49歳群:322名、50〜54歳群:278名、55〜59歳群:222名、60歳以上群:324名であった。また、対象者の採血時期は7〜9月が5,446名(82%)と大半を占め、4〜6月が946名(14%)、10月以降が255名(4%)であった。
麻疹含有ワクチン接種状況
麻疹に対するワクチン(麻疹含有ワクチン)には麻疹単抗原ワクチン(1978年10月に定期接種に導入)、麻疹風疹混合:MRワクチン(2006年4月に定期接種に導入)、麻疹おたふくかぜ風疹混合:MMRワクチン(1989年〜1993年に生後12カ月以上72カ月未満の児における麻疹定期接種時に選択可能であった)があるが、2011年度調査が実施された時点における麻疹含有ワクチンの接種状況について図1に示した。上段は接種歴不明者を含まないグラフ、下段は接種歴不明者を含むグラフであり、感受性調査を実施していない3県(富山県、愛媛県、熊本県)からの報告も含まれている。
全体では麻疹含有ワクチンの1回接種者は32.8%、2回接種者は15.6%、接種は受けたが回数不明であった者は 7.3%、未接種者は 9.1%、接種歴不明者は35.3%であり、年齢の上昇に伴い接種歴不明者の割合が増加した。1回以上接種した者(接種回数不明者も含む)について年齢別にみると、0歳では数%であったが、定期接種第1期の対象年齢である1歳で急増し(※調査時の年齢が1歳0カ月〜1歳11カ月であるため、調査後2歳になるまでに接種を受けた者が多く存在すると考えられる)、2歳以降19歳までは高い接種率を維持していた。また、MRワクチンが2006年度に定期接種に導入されたことを受けて、当時第1期の接種対象者であった5〜6歳ではMRワクチンによる2回接種者が報告されるようになった。
2006年6月から1)1回目の接種で免疫が獲得できなかったprimary vaccine failureの者への免疫賦与、2)1回目の接種後、年数の経過により免疫が減衰してきた者に対する2回目の接種による免疫増強、3)1回目の接種機会を逃した者に再度の接種機会を与えることを目的とした定期接種第2期(対象は年度内に6歳になる者:本調査時点で5または6歳)が開始されたが、本調査までに第2期の接種期間が終了した7〜10歳における麻疹含有ワクチンの2回接種率は、2006年度以降年々増加していたが、50〜60%程度であり、1回のみの接種で2回目を受けていない者が20〜30%残存していた。また、2008年4月からは5年間の期限で定期接種第3期(対象は年度内に13歳になる者:本調査時点で12または13歳)および第4期(同18歳になる者:同17または18歳、※2011年度は年度内に17歳になる一部も対象)が開始されたが、本調査までに第3期の接種期間が終了した14〜15歳および第4期の接種期間が終了した19〜20歳における麻疹含有ワクチンの2回接種率の平均はそれぞれ56.8%および40.1%であった。同年齢層において1回のみの接種で2回目を受けていない者は、第3期接種期間終了者で15〜20%程度、第4期接種期間終了者で25%程度残存しており、第2〜4期の接種期間終了者に対する2回目の接種機会の賦与が必要と考えられた。
図2は2011年度と定期接種第2期が開始された2006年度の予防接種状況について、0〜19歳における麻疹含有ワクチン1回接種者と2回接種者のみの比率を示したグラフである。2011年度の2回接種者の割合は2006年度と比較して着実に増加していた。しかし、現時点では十分とはいえず、本年度の第2〜4期の接種対象者(第2期5〜6歳、第3期12〜13歳、第4期17〜18歳)でまだ受けていない者、および来年度(2012年度)の接種対象者(第2期4〜5歳、第3期11〜12歳、第4期16〜17歳)における接種率の向上が期待される。
麻疹PA抗体保有状況
年齢別あるいは年齢群別の麻疹PA抗体保有状況(中間報告)を図3に示した。PA法により抗体陽性と判定される抗体価1:16以上の抗体保有率について年齢別にみると、0〜5カ月齢では移行抗体と考えられる抗体保有者が57%存在していたが、6〜11か月齢では9%であった。その後、定期接種第1期の対象年齢である1歳で74%と急増し、2歳以降のすべての年齢および年齢群では95%以上の抗体保有率であった。これはWHOが麻疹排除に必要として求めている目標の1つである。しかし、PA抗体価1:16は麻疹の発症予防として十分な抗体価ではないことから、PA法において麻疹の発症予防の目安とされる抗体価は1:128以上(少なくとも1:128以上であり、できれば1:256以上が望ましい)と考えられている。2006年度以降来年度までの第2〜4期接種対象者(本調査時点で4〜21歳)のうち、来年度の接種対象者が多く含まれる年齢層(第2期:本調査時点で4〜5歳、第3期:同11〜12歳、第4期:同16〜17歳)以外の年齢では概ね90%以上の抗体保有率であり、2回目の接種を受けることによる免疫増強の効果がみられた。
麻疹PA抗体保有状況の年度別比較
麻疹PA抗体保有状況について、2011年度と第2期の接種が開始された2006年度の比較を図4に示した。PA抗体価1:16以上の抗体保有率についてみると、2006年度は2〜19歳のうち約半数で95%を下回る年齢がみられたが、2011年度中間報告の同年齢層はすべて95%以上であった。20歳以上の各年齢群においては両年度でほとんど差はみられず、97%以上の高い抗体保有率であった。また、PA抗体価1:128以上について、5歳から20〜24歳群における抗体保有率の平均を比較すると、2006年度の84%に対して2011年度は92%に上昇していた。
図5は2008〜2011年度の第3期および第4期接種対象者における麻疹PA抗体保有状況(PA抗体価1:16〜1:64および1:128以上)について、第3期・第4期の定期接種が開始される前年の2007年度と開始から4年目の2011年度の結果を生年別に比較したグラフである。
第3期接種対象者は1995〜1998年度生まれの者(2008〜2011年度に13歳になる者)であるが、グラフでは2007年度調査時に9〜12歳であった者と2011年度調査時に13〜16歳であった者について比較した(例えば1995年生まれの者では2007年度調査時の12歳と2011年度調査時の16歳を比較)。1995〜1997年生まれにおける2011年度の抗体保有率(PA抗体価1:128以上)は2007年度と比較して8〜18ポイント上昇し、本年度(一部昨年度)の第3期接種対象者である1998年生まれでは12ポイントの上昇がみられた。
一方、第4期接種対象者(1990〜1993年度生まれで2008〜2011年度に18歳になる者であるが、2007年度調査時の14〜17歳と2011年度調査時の18〜21歳を比較)における抗体保有率(PA抗体価1:128以上)について2011年度と2007年度を比較すると、1990〜1992年生まれでは8〜11ポイント上昇し、本年度(一部昨年度)の第4期接種対象者である1993年生まれでは6ポイントの上昇であった。
まとめ
2011年度調査の結果から、麻疹含有ワクチンの2回接種率の向上により抗体保有率は上昇し、抗体陰性者(PA抗体価1:16未満)の減少ならびに発症予防が期待できる抗体(PA抗体価1:128以上)の保有者の増加が認められた。
2009年以降、わが国の麻疹患者報告数は年間数百人規模まで減少した。排除達成の目標である2012年を迎え、今後の定期接種対象者における接種率・抗体保有率の向上が望まれる。また、1回のみの接種で2回目を受けていない者が第2〜4期の接種期間終了者に残存していることから、これらの者に対する2回目の接種機会の賦与が必要と考えられた。さらに、定期接種の対象ではない者においても十分な抗体を保有していない者、特に発症した場合に周りへの影響が大きい医療、福祉、教育などの現場に従事する者は、追加接種により免疫を増強することが重要と考えられる。
国立感染症研究所感染症情報センター 佐藤 弘 多屋馨子 岡部信彦
2011年度麻疹感受性調査および予防接種状況調査実施都道府県および都道府県地方衛生研究所
北海道、宮城県、山形県、福島県、茨城県、栃木県、群馬県、千葉県、東京都、新潟県、富山県、
石川県、長野県、静岡県、愛知県、三重県、京都府、大阪府、山口県、香川県、愛媛県、高知県、
福岡県、佐賀県、熊本県、宮崎県、沖縄県